少年の名はジルベール

少年の名はジルベール

2021年10月21日

86 武宮恵子 小学館

「一度きりの大泉の話」を読んだので、これも読まずばなるまい、と思った。「一度きりの・・」はこの本よりあとに出された萩尾望都の著作である。若かりし頃、萩尾望都と竹宮恵子は大泉のアパートでの同居生活をしていた。それが、どのように破綻したかを語った作品である。この「少年の名はジルベール」はそれよりも先に書かれている、やはり当時の同居生活を描いた作品である。これがあったために、萩尾のもとに、当時に関する取材などが殺到し、困った彼女が「一度きりの」を出すことで、その後の取材をシャットアウトしようとした、という経緯がある。

竹宮恵子は、この本で萩尾がいかに才能あふれる漫画家であるか、絶賛している。画力、創造力、編集者の評価などは当時から素晴らしく、それに引き換え、自分はスランプに陥り、思うように作品が描けず、萩尾にジェラシーを感じ、落ち込んでいたと書いている。そして、その状況についに耐えきれず、同居生活の解散を言い出したと書いている。

「一度きりの・・」の中で萩尾の語った竹宮恵子は常に自信に溢れ、完璧な才能を誇っていた。が、この本で描かれた竹宮の自画像は、萩尾に嫉妬を感じ、壁にぶち当たっている存在である。一緒に行ったヨーロッパ旅行も、萩尾によれば竹宮が見事な準備をしてリーダーとなっていたのだが、竹宮によれば、苦労しながらトマスクックを調べたりして、心配と不安の中で旅を進めていたとある。

結局の処、二人とも自分のだめなところが許せず、相手が輝いて見えていたのだろう。そして、互いの輝きに引き比べて自分を惨めに思い合い、ついに竹宮がそこから逃げ出した。逃げるに際し、萩尾に言わずにはおれなかった言葉が、おそらく竹宮の意図よりも遥かに大きく萩尾を傷つけ、以後、決して理解し合えない溝ができてしまったということなのだろう。

これはもう、どちらが悪いなどと言うよりは、合わない二人が必要以上に関わってしまった結果としか言いようがない。取材などせず、どうか放っておいてあげて欲しい、と心から思う。

それにしても、竹宮はおそらくこの本を書くことで、萩尾望都に謝りたかったのだろう。だが、彼女が思っているよりも遥かにひどく萩尾望都は傷ついていた。ということを、後に竹宮は知ることになる。自分のしたことは、自分の側からしかわからないからね。それはもう、どうしようもないことだ。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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