61 村田喜代子 朝日新聞社
全部読みたい村田喜代子さん。読み残しを探してはつぶしている。これは2005年に出されたエッセイ。テーマは犬を飼う話である。
掌に乗るくらいのかわいらしいラブラドールのメスの子犬、ユーリィが村田家にやってきた。手のかからないお利口な犬だと感動したのはほんの一週間ほどである。それから悪夢が始まった。人間の手を噛み、足を嚙み、衣類を引きちぎり、じゃれつく。悪意はない。ただただ、人が好きなのである。夫婦で血みどろになり、取っ組み合いで噛み癖の矯正に取り掛かる。おりしも、新聞では脚本家の三谷幸喜が、同じようにラブラドールとの奮戦記を書いていた。一緒に泣きましょう、と村田喜代子はそれを喜んで読んだ。
そのユーリィとの闘いの記録に、かつて飼っていたシベリアンハスキーのルビィの想い出が描かれる。ルビィは勝手気ままな犬だったが、噛みはしなかった。ルビィがやってきてから亡くなるまでの日々の想い出。そして、ユーリィとの闘い。犬好きだった鴨居羊子や武田百合子の話もそこに加わっていく。まさかこんなところで鴨居羊子や武田百合子に出会うとは思わなかった。村田さんも彼女たちが好きなのか。うれしい。
その頃からもう二十年も経ってしまっている。ユーリィはご存命であろうか。犬を飼うということは、犬といつか別れるということでもある。それを思うと、私は飼えない。まあ、理由はそれだけではないけれどね。
リンク