山本彩香 とー、あんしやさ

山本彩香 とー、あんしやさ

61 駒沢敏器 スイッチ・パブリッシング

沖縄が好きだ。何度行ったかしれない。沖縄好きの理由の一つは食にある。沖縄の食べ物はおいしい。ついでに泡盛もすばらしい。今住んでいる場所には行きつけの沖縄料理屋もあって、時々沖縄を味わいに行く。でも、現地であの風とあの波音とあの空気の中で食べるのが一番だ。

これは夫のおすすめ本。2007年から一年間雑誌に連載された山本彩香さんという琉球料理の第一人者への聴きがたりが書籍化されたもの。山本彩香さんはもう料理屋を閉めてしまったし、作者は亡くなってしまった。でも、本になって良かったと思う。

東京生まれの山本彩香さんは2歳のとき那覇の高級花街「辻」の尾類だった伯母「崎間カマト」の養女となる。尾類とは芸妓のこと。義母の結婚、離婚などに振り回され、一度は踊り子として身を立て、沖縄タイムス芸術選賞大賞受賞まで受賞するが、のちに料理屋を開く。義母に仕込まれた琉球料理は中国の影響を受けた王朝料理の伝統を受け継ぐものであり、そこに彼女独自の工夫も加わって大きな評判を呼んだ。

この本はそんな山本彩香さんとの対話をもとに彼女の半生を描いたものである。写真と共に紹介される料理はとても美しくおいしそうだが、彼女の人生は波乱に富んで苦労の多いものだった。ただでさえ沖縄の戦禍は筆舌に尽くしがたいものであったし、また、女性であること、尾類の家族であること、そして義母がわがままで病弱な人であったことも大きく影響した。NOが言えないばかりにしなくてもいい苦労もした様子もうかがえる。だが、そんな中で義母に叩き込まれた料理の腕は彼女誇りであり、人生を支えるものとなった。どんなにつらい時も、体調が悪い時も、これを食べれば元気が出る、という料理がいくつも登場する。食べることは生きることだと改めて思う。

山本彩香さんの料理を食べてみたかった。あんなに沖縄には通っていたのになあ。ご縁がなかったということか。残念だ。