83 山本さほ 小学館
作者の自叙伝的漫画である。といっても何か立派なことを成し遂げた人の話ではない。小学校時代から、育児放置気味の友達の家に入り浸ってテレビゲームにのめり込み、いたずらばかりして学校で叱られ、高校では時に不登校になり、志望した大学には行けず、絵を描くという特技も活かせずにショップの売り子になり、友達の結婚式に、今までの思い出をまとめた漫画を描こうとして描ききれなかった。そんなエピソードが延々とつづられている。
何しろ「クイーンズギャンビット」と並行してこれを読んでいたものだから、その落差が激しすぎた。片や、孤児院であらゆる障害を乗り越えながらチェスの腕を磨き、世界の頂点に上り詰めようとする少女。片や、無職の、友人の父親が床で寝ている、その胴体をまたぎ越してゲーム機に近づき、お菓子を夕食代わりに延々とゲームに興じる少女。知恵と策略で困難をなぎ倒す天才少女と、M-1出場を目指してコンビを組むものの、集まるのがめんどくさすぎて結局、練習もしなかった少女。同じ年齢で、こんなに違うものか!でも、どっちかっていうと、私はこっちだよな・・・。
作者は私よりはひと世代下だと思う。だが、登場するゲームの話はわりに分かったし、学校や友人関係も、身近で共感できるところが多かった。学校に行くのが嫌で、電車で違う方向にずっと乗って行ってしまう話など、実はものすごく共感した。これは、どこにでもいる、等身大の、きれいごとじゃない少女の成長物語だ。作者が大好きで、どんな時でも全面的に受け入れ、愛してくれた岡崎という友人。彼女の結婚に際し、これを描こうと思った作者の気持ちもよくわかるし、それを書かせた幼馴染の杉ちゃんも好きになる。ちなみに、杉ちゃんは「あらびき団」に出たこともある、あんまり売れてない実在のお笑い芸人である。その妙なリアルさ加減も、また良いスパイスであった。