平場の月

平場の月

44朝倉かすみ 光文社

山本周五郎賞受賞作品。いろんな書評でほめられていたような記憶が。予約を入れてから受け取るまで時間がかかったので、なぜ読みたかったのかは例によってよくわからなくなってから読んだが、なるほど、これは良い作品であった。読んでよかった。

冒頭に最重要なネタバレがされているので「旅する練習」みたいに最後のページで、どああっ!ということはない。中年の男女の地道な愛の物語、と書いちゃうと非常に陳腐だが。生活感があり、泥臭さがあり、地味でじわじわくるようなリアルな物語だ。昔テレビで見たピーター・フォーク主演の「残された日々」という映画を思い出した。あれも同じように地味で生活感があって全然カッコよくはないが心にしみる中年の恋物語だったっけ。

須藤という女性がとてもいい。素直になれないところも、独立心が強いところも、意地っ張りなところも、うまくいかないところも、子供時代の傷を忘れられないことも、全部いい。そんな須藤を好きになってしまう青砥という男性も、いいやつだ。どこにでもいそうな普通の中年であるところも、とてもいい。

最後に向けて、青砥があまりにうっかり過ぎるのが許せんというか不可解だと思う部分はあるが、仕方がないよなあとも思う。読み終えると切ないんだよなあ。キラキラした恋愛物語よりも、加齢臭や埃やお金のなさの中での生活感あふれる恋物語のほうがぐっとくる、のは、齢のせいなんだろうか。

それにしても。中学時代の思い出を共有している同志の恋愛なんて、私には最も遠いものだわ。地元っていいなあ、とかいうセリフ、言ってみたいけれど、一生言えない。