惣十郎浮世始末

惣十郎浮世始末

139 木内昇 中央公論新社

たぶんはじめましての作家。直木賞作家だそうだ。知らなかったなあ。すまん。夫が面白がっていたので回してもらった本。

主人公は服部惣十郎。北町奉行所定町廻同心である。時代は蛮社の獄の後あたり。浅草安倍川町の薬種問屋の火事から始まって、疫病除けの祈祷師やら蘭学医師やら蘭書発行の書肆の主人夫婦やら様々な人物が絡み合っていく。惣十郎はなかなかいい男なのであるが、自分じゃわかってない。突然の発熱で亡くなった若い妻に後ろめたさを覚えつつ、かわいげのない書肆の妻女に心を動かされており、愛想のない下女の心には気が付きもしない。

時代物でありながら、SNS時代ばりに根拠がないのに声が大きい人間の発する噂に翻弄される人々や、老人問題、家庭内DVや障碍者の子を持つ親などなど、極めて現代的な問題がさりげなくちりばめられている。ともすると散り散りバラバラになりそうな話題が上手に調和して最後に集結するのはさすがである。

登場人物はそれぞれにちょっとずつこじらせたキャラクターであり、であるからこそ、一人一人を好きになる。この人たちに、またどこかで会いたいと思えるような物語である。

時代物も面白いなあ。高野長英の名前を見て、なんか嬉しく懐かしくなる私であった。