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「愛の顛末 純愛とスキャンダルの文学史」梯久美子 文藝春秋
なんちゅう題名だよ。借りるのに恥ずかしいじゃないか。とぶつぶつ言いながら借りてきた本。文学史に残る作家の恋愛と結婚の顛末が書かれている。まあ、芸能週刊誌を読むゲスな好奇心で読んだんですけどね。
小林多喜二、近松秋江、中島敦、三浦綾子、原民喜、鈴木しづ子、梶井基次郎、中城ふみ子、寺田寅彦、八木重吉、宮柊二、吉野せい。
いろんな人がいる。小林多喜二は、なるほど優しい人だったんだな。思いを寄せた人は、一度も表舞台にでずに長生きされたようだ。三浦綾子夫妻のことは知っていたけれど。梶井基次郎のことも、まあ、知ってはいたが、宇野千代ってひどい。自分は綺麗な男が好きだから、梶井基次郎とはそんな関係にはならないとか明言しやがって。実は仲よかったんじゃないの。梶井さんだって好きであんな顔だったわけじゃないのに。
ちょっと引いたのは八木重吉かな。23歳の時、16歳の女学生に一週間英語を教えただけで夢中になり、熱烈なラブレターを送り続け、先輩に、結婚できなかったら死ぬと訴えて助けてもらい、九ヶ月後には婚約。卒業後に結婚することになったのに待ちきれず、女学校をやめさせて17歳の少女を妻にしてしまう。どうもストーカーっぽい。そのくせ、
妻をやしなふためばかりに
桃子と陽二をやしなふためばかりに
おあしをもうけねばなりませんゆえ
こころにもないいやなしごとにたづさわってゐます
心苦しい日日のなりわひです
(「ものおちついた冬のまち」より)
なんて詩を書いている。人のせいにするなよ。で、クリスチャンになって信仰を深めた結果、かわいそうだからといって魚や肉を食べなくなり、やせ細って結核で入院する。寂しくてたまらないから見舞いに来いと毎日はがきが来る。妻が電車を乗り継いで会いに行くと、家においてきた子どもたちが泣いているのではないかと案じ、短時間でもう帰れ、と命令する。家に帰ると追いかけるように面会に来いというはがきが来る。つくづくとわがままで過激な人だと呆れてしまう。
美しい詩を書く人がわがままで自己中心的なのは、石川啄木以来の伝統なのかしらね。
2016/3/24