170 宮島未奈 新潮社
2021年、第20回R-18文学賞を史上初のトリプル受賞(大賞、読者賞、友近賞)した「ありがとう西武大津店」を含む宮島未奈氏のデビュー作、だそうだ。どんな内容なのかも知らず、ただ、いろんな書評でよく名前を見かけるなー、という理由で図書館に予約。大人気で回ってくるのに時間がかかった。どんな派手な小説だろうと思ったら、滋賀県という地味な土地の高校生の話じゃないか。でも、すごく面白かった。
滋賀県だよ、滋賀県。姫野カオルコの「忍びの滋賀 いつも京都の日陰で」を思い出さずにはいられない。六つの短編が収められているのだが、しょっぱなは上記した通り「ありがとう西武大津店」である。大津にあった西武百貨店が閉店することが決まった夏の物語だ。主人公の成瀬はこの時点で高校二年生。「この夏を西武にささげようと思う」と宣言するところから始まる。
成瀬という主人公が非常に良い。ぶっきらぼうで感情に乏しい人物なのだが、内にたぎるものがある。空気を読まない。おのれの道を突き進む。かっこいいのだ。そして、さわやかなのだ。周囲の、ごく普通の高校生たちもまた、それぞれにいとおしい。成瀬よりずっと人間臭くて、悩んだり困ったりする姿も美しい。成瀬が淡々としてるからこそ、彼らも生きてくるのだ。
なんと良い物語だ、と思っていたら、なんと続編も出るらしい。読むぞ。読まずにおられるか。
リンク