手術はしません 父と娘の「ガン病棟」450日

手術はしません 父と娘の「ガン病棟」450日

2021年7月24日

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「手術はしません父と娘の「ガン闘病」450日団鬼六 黒岩由起子 新潮社

「赦す人」では、団鬼六の最後の様子を編集者の目から読んだが、これは娘と本人の目から見た団鬼六の最後である。

SM官能作家の団鬼六は、我が子に対しては推理小説家であると偽っていた。娘さんが裸の綺麗なお姉さんが縛られて写真を撮られているのを目撃したときは、父に非常にバツの悪い顔をされ、以来、「お写真の日」は学校にお迎えがきて、どこかで時間を潰して帰らされたという。種々の責め道具は「健康器具」と言い訳したというから笑ってしまう。

団鬼六は、食道がんが発見されたとき、手術を拒絶して、放射線治療を選んだ。放射線治療で一度はがんが消滅したが、再発して抗癌剤治療を始めた。それはとても苦しいものだったようだ。

家族は最初から手術を望んだが本人に拒否されたという。しかし、何が正解だったのかはわからない。団鬼六は、死のギリギリまで宴会を楽しみ、旅行をし、仕事をし続けた。それができたのは、手術を断ったからかもしれない。無残に亡くなってしまった勘三郎を思うと、何が正しいのか私には全くわからない。

この本には娘である黒岩由紀子と団鬼六の文章が交互に並べられている。黒岩さんには申し訳ないが、団鬼六は本物の文筆家であることがよく分かる。団鬼六の文は、客観的で鋭くてユーモアがあって一気に読めてしまう。娘さんは、家族の愛と苦しみと思いやりに溢れてはいるが、素人の文章だ。無理もない話ではあるけれど。

団鬼六は、いい生涯だったのかもしれない、と思う。癌は、あまりいじらないで、運命に身を委ねた方がいい病気なのかもしれない。改めて、そう思ってしまう本であった。

2013/3/17