70 友井羊 集英社文庫
スイーツレシピが謎解きのきっかけとなる「スイーツレシピで謎解きを」の続編。前作の登場人物たちが卒業した後の、次の世代の学園ミステリ。例によって人が死なない日常の謎である。
今回のテーマは実は発達障害。人見知りがひどくて人前でまともにしゃべることができない少女と、がさつで言葉がきつくて、いつも体を動かしていたい、活発だけど友達のできない、失敗ばかりの少女のコンビが主人公だ。発達障害というよりも、普通の平均的な女子高校生にはなれないふたりの物語と言ったほうがいいのかもしれないが、最終的には発達障害の問題とかなり真正面から向き合うことにはなる。
発達障害なんて他人事だとかつては思っていたが、この歳になってはたと気が付けば、わが父はおそらくASDと呼ばれる障害を持っていたと思われるし、わが母もADHDを持っていると思えてならない。他人の気持ちを一切くみ取らずに自分の正義だけを振り回す父と、失くしものや忘れ物が日常茶飯事で、うっかりミスは当たり前、自分でものを判断せずに人の言葉に流されがちな母のあいだで、私は家庭なんてそんなもの、と思って育っていたのだった。おそらく私もいわゆるグレーゾーンの人間ではないかと自覚している。あるいは、検査したらもっと重篤かもしれんが。
だから、この物語に登場する少女たちの抱える困難やトラブルは非常に身近だし、とてもよくわかる。そして、それって、努力だけで解決することではないよね、とつくづく思う。周囲の理解と協力がとても大事。でも、一方では、当事者は自分のできることを見極めて少しでもトラブルを防ぐにはどうしたらいいか、をやっぱり自らの責任で工夫、努力することも必要なんだろうと思う。そのあたりが割にバランスよく描かれているのがうまい、と思った。
それにつけても、相変わらず食べ物は魅力的。今回は前作のようなスイーツレシピ満載ではないが、さくらんぼや焼き立てのパンやアップルパイやジャムなどの日常的な食べ物が実においしそうに登場する。食べることは人生の愉しみだからね~。
ちなみに、この本を、私は人間ドックの待合室で読み切った。朝から飲まず食わずできているのに、どんだけ待たせるのさ、胃カメラ。薄っぺらな検査着一枚で腹ぺこでうまそうな食べ物の出てくるミステリを読む私。あー、健康診断は健康に悪い!!