文藝編集者、作家と闘う

文藝編集者、作家と闘う

18 山田裕樹 光文社

作者は、長らく集英社の編集者だった人。文芸書や「小説すばる」編集長、そして文庫の現場にもいた。かかわった小説家は筒井康隆、森瑤子、小林信彦、北方健三、椎名誠、逢坂剛、船戸与一、佐藤正午、夢枕獏、東野圭吾、唯川恵、川上健一、高野秀行…。そうそうたるメンバーである。

編集者は、ただ小説家のスケジュールを管理し、原稿を貰って本にする人ではない。原稿を読み込んで、それをモノにできるか判定して、どこにどう手を入れればもっと良くなるか、もっと売れるかを考え、作家に伝え、納得させ、何度でも書き直させ、仕上げていく。この人は「いやあ、面白かった」と言ってから「しかし、もっと面白くする方法があります」と説得するのが得意だったそうだ。そんなこと、よほど自信があり、肝が据わってないとできないよなあ。

冒険家にしてノンフィクション作家の高野秀行を発掘したエピソードも面白かった。作者は、早稲田大学探検部が幻の怪獣ムベンベ探索のためコンゴ奥地に出発するという新聞記事を読んで、探検部OBの船戸与一と西木正明に寄付を申し出た。が、探検部の隊長は現れなかった。その後、早稲田大学探検部名で出た「幻の怪獣・ムベンベを追え」の面白さに彼は驚愕した。しかし、くだんのOBたちに「良いライターを使ったんだろう」と一蹴された。その後13年ほどたってからようやく当時の隊長であった「ムベンベ」作者の高野氏を発見。彼は、様々な職を転々としながら細々と執筆を続けていた。この高野氏の売り出しには、宮部みゆきや北上次郎まで絡んでいたという。今の大ノンフィクション作家、高野秀行があるのは、この本の作者のおかげでもある。感謝に堪えない。

65歳で仕事を引退して世界中を旅してまわろうと思っていた作者は、コロナ禍にやられた。だから、日本の離島を回っていた。この話、うちと同じだわ。我が家でも引退と同時に世界旅行を始めようという魂胆だったのに、ちょうどコロナ禍にやられてスタートがすっかり遅れてしまったから、他人事ではない。でも、そのおかげで山田裕樹氏には時間が出来、この本を書き上げられた。だとしたら、それもまた良いことであったのだと思う。様々な作家とその作品の裏側を知ることのできる興味深い本であった。