106 門井慶喜 文藝春秋
腰の引けたメディアが多い中で、攻める姿勢を崩さないのが文春である。良いことばっかりじゃないが、少なくとも忖度抜きに、得た情報を出そうとする姿勢は評価に値する。政治家を批判できるのは、もはやこの出版社だけなんじゃないかとすら思うときもある。
その文藝春秋社を立ち上げたのが、菊池寛だ。「父帰る」「真珠夫人」などの作者、芥川賞と直木賞を創設した人。彼の半生を描いたのがこの本である。作家としてだけでなく、出版社の社長として辣腕をふるったひと…だったが、実は営業部員の収賄事件なんかもあったのね。戦争協力者としても批判を受けたし、愛人に子供作ったり、芸者を追いかけたり、家庭人としても問題はあった。当時の男性としては当たり前だったのかもしれんが。(と思えば思うほど、むしろうんざりはする。)
芥川龍之介は繊細で人の評判を気にする人として描かれている。直木三十五は愛すべきダメ人間的な感じか。彼らへの愛着が菊池寛に文学賞を創設させ、それは今に脈々とつながっているわけだ。座談会というものを考え出したのも菊池寛だとは知らなんだ。うまいもの食わせて、言いたいこと言わせて、それが次回の執筆につながる、なんて編集者としてのアイディアだよな。
石井桃子や向田邦子が登場したのにはちょっと驚いた。石井桃子は菊池寛の助手も務めていたのね。文学界の歴史を垣間見る楽しみもある。
門井さんは「定価のない本」以来である。面白いものを書くなあ。
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