旅する練習

旅する練習

24 乗代雄介 講談社

三島由紀夫賞、坪田譲治文学賞受賞作にして芥川賞候補ですって。読んでから知った。なんでこの本を読む気になったのかなあ、と思いながら読んだ。予約を入れたのはずいぶん前で、もう忘れてしまったからね。

中学受験を終えて、卒業を待つばかりでコロナのため休校になってしまった姪と小説家の伯父が、千葉県の我孫子から利根川沿いに鹿島アントラーズの本拠地を徒歩で目指す旅に出る。サッカーが上手になりたい少女は、ドリブルとリフティングの練習をしながら歩き、伯父はところどころで文章をしたためる。少女も中学から出された宿題の日記をたまに書く。手賀沼から利根川に出て、水鳥や木々の植生などを観察しながら、語り合いながらの旅。途中から知り合ったジーコ好きの女子大生もまじりあってのロードムービー。

読んでいると、前向きで生き生きとした少女がどうしても好きになる。自分に自信のない女子大生との交流は、いろんなことを考えさせてくれる。いくつかの問題を経て、目的地へ向かう。ただひたすら歩く旅なのだけれど、楽しそうで自分も歩いてみたくなる。我孫子も手賀沼も知ってる場所だからね。しかも、合流する女子大生が来たのがユーカリが丘からだって。おお、息子が小さいころによく歩いた街ではないか。

ただね。最後のページまで読まないと、この本は終わらない。そして、最後の一ページが、この物語の色を変える。読み終えて、私はしばらく動けなかった。しばらくずっと最後のページのことを考えてしまった。今も考えている。明日も考えそうだ。

作者は何を言いたかったのかなあ。生きていることのきらめき。忍耐と記憶。思い出。そうなんだろうか。最後まで読んだ人と、どう思ったかを話し合いたくなる本であった。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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