144 坪内祐三 本の雑誌社
2005年の4月から2006年の4月までの毎日新聞の連載記事の単行本化。文学者や政治家などの日記からある一日を引用。文量としては短いが、そこから日常としての歴史が立ち上がってくる。深い知識と教養に裏打ちされた、いかにも坪内祐三らしい一冊。連載紙面の日付の前後数日から日記を選ぶ。登場人物は毎回変わる。まるでパズルのように巧みに組み合わされた内容であるが、紙面の関係で一回休載が入ったために予定が少し狂ったとあとがきにある。
登場したのは50人。夏目漱石から、三島由紀夫、野上弥生子、江藤淳、尾崎紅葉、大宅壮一、神谷美恵子、武田百合子、石川啄木、遠藤周作‥‥そうそうたるメンバーである。私はこれを読みながら山田風太郎の「人間臨終図鑑」(歴史上のあらゆる人物の死にざまを描いた異色作)を思い出したのだが、その山田風太郎も登場していた。
歴史上のある日、その時、その人はどんな一日を送ったのか。それが日常的であればあるほど、歴史がぐっと近づく感覚がある。小林秀雄が恋愛問題で失踪した時、中原中也が異様なほどはしゃいでいたという日記を見て、やっぱりこいつ、嫌な奴だったんだな、と思ったりした(笑)。
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