53 角田光代 オレンジページ
絵本以外では「愛がなんだ」以来の角田光代。この人の書くものはいつだっていい。信頼の作家である。
これは雑誌「オレンジページ」に2015年から2020年まで連載したエッセイを再構成した本だ。オレンジページ掲載だから、基本は食べるものの話。たとえば、京都のものすごくおいしい玉子サンドを食べたくて、何度も京都でチャレンジするが、思ったようなものに出会えなくて、そしてついに東京でそれに出会えた感激の物語。これはわかるなー。関西の玉子サンドはゆで卵をマヨネーズ和えしたものではなく、ふわふわのだし巻き卵を、これまたふわふわのパンではさんだものが多い。とてもおいしい。関西の人にいわせると「どこでも食べられる」そうなんだが、実際に食べようとするとなかなかみつからない。私の場合、ネット上でレシピを発見して、その通りに作ったら娘の大好物になった。そういえばしばらく作ってない。
角田さんの住んでいる街にかつては私も住んでいて、本屋さん主催のトークショーに行って角田さんの持ってきてくださった大瓶のシャンペンをみんなで紙コップで飲んだこともある。都会の片隅なのにチェーン店があんまりなくて個性的な個人商店が多く、おいしい居酒屋さんやカレー屋さん、焼き鳥屋さんも多い良い街だった。この本に登場するいくつかのコロッケを売っている肉屋さんなんて、だいたい特定できちゃう。その周辺で角田さんはランニングをしたり、今日はどこで何を食べようかなとわくわくしている。そう思うとエッセイがより一層身近で楽しくなる。すごく生活感にあふれたエッセイなのだ。
そういえば、しばらくオレンジページを読んでいない。以前は美容院に行くといつもオレンジページを読んで新しいレシピを知り、必死に覚えて帰りに買い物をして帰った。私の髪が短くなる日は新しいメニューが食卓に並んだものだ。あの街を離れて、美容院も変わって以来、そういうことはなくなった。ということに、この本を読んでさっき気が付いたところだ。
