大人の休日倶楽部に入会している。年寄り(!)向けにJRの切符が割に安く手に入るシステムである。これが、通常、人が旅行したがらないような時期になると、新幹線や特急乗り放題の格安チケットを放出する。前は四日間だったのが、最近、値上がりした代わりに五日間有効になった。それにうかうかと乗っちゃう我々夫婦なのである。
行きたいけど行ってなかった場所の宿題を片づけよう、というわけで、今回の旅は岩手県の遠野と青森県の酸ヶ湯温泉と秋田県の乳頭温泉である。あっちこっち飛び回るので移動がちょっと大変。でも、乗り放題だから(笑)。初日は新幹線で新花巻、そこから釜石線で遠野へ。釜石線は結構、派手。チケットを取ったとき、指定席があるとは聞いてなかったが、三両編成のうちの一両は指定席だって。座れないかと心配したが、何とか座れてよかったよかった。
小一時間ほどで遠野に到着。観光案内所で電動自転車を借りる。車を運転しない我々には、天気が許す限りはこれが一番こまわりが利く。案内所お勧めの蕎麦屋で昼食を取ってから宿に荷物を置き、そこからまずは「子どもの本の森 遠野」へ。ここは、安藤忠雄が作った子ども図書館で、一度来てみたかったのだ。
素朴なつくりの木造建築。中に入ると、おお、本棚が素晴らしい。
こんなくつろげるスペースもある。
ちょうどおはなし会が行われていて、子どもたちの楽しそうな歓声が聞こえる。本棚には、子どもたちはもちろん、付き添い出来た大人たちだって十分に楽しめるラインナップがそろっている。既出の熊谷守一クロッキー集もここで見つけた。選本のセンスがとてもいい。こんな図書館がそばにあったら、毎日通っちゃうのになー。遠野の子どもたちは、幸せだ。十分楽しんでからお暇しようとしたら、スタッフの方が、お土産をくださった。なんとかわいい。
図書館を出て、電動自転車で、カッパ釣りができるというカッパ淵を目指す。道すがら、いくつかのポイントを通る。まずは白幡神社の脇の「さすらい地蔵」。力自慢の男たちが持って運ぶので、あちこちさすらったからこの名前だそうだ。さぞかし乱暴な男たちが持ちあげたり、転がしたりしたんだろうなあ。石が丸みを帯びて、ちょっと歪んでいる。
それから、遠野八幡宮。緑が美しい。この日はちゃんと晴れていて、すごく暑かった。
手水場にはカッパがいた。
結構な距離を走って、カッパ淵。本当にカッパがいそうな気がする。カッパ捕獲許可書を200円支払って申告するとカッパ釣りができるそうなんだが、我々は割愛。釣り竿にキュウリをつけてカッパ釣りをしている子どももいたけどね。
カッパ淵から伝承園という場所へ。ここには旧民家や遠野物語の話者の記念館やオシラさまのならぶ御蚕神堂がある。オシラさまは、遠野物語に出てくる、馬と結婚した娘が天に昇った神さま。東北地方に広く伝わる民話で、女性の守り神だったり、お蚕様の神様だったりもするそうだ。囲炉裏端では語り部がちょうどオシラさまの話を語っていたけれど、満員だったので通りすがりに耳にした。
さて、ここからは頑張って宿まで自転車を走らせる。西日が当たって暑い暑い。こんなに長く自転車に乗るのは久しぶりだあ。宿では地ビールをいただく。遠野はホップ栽培も盛んで、途中にホップ畑もあった。だからだろうね、地ビールのうまいことといったら。
夜、宿に語り部が来て、いくつか昔話を語って聞かせてくれた。遠野物語は読んだことがあったけれど、こうやって地元の言葉でゆったりと語り聞かせてもらうと、物語が立体的に立ち上がってくるのがわかる。飢饉で食べるものがない姉妹が鳥になった話が切なかった。オシラさまの物語も、その背後にはいろいろな事情が隠されているのだろうなあ。家族同様に大事されていた農耕馬や、思う人の所に嫁ぐことのできない娘の悲しみや、食べるものがない苦しみなど。いろいろなことを想像した。
遠野はとにかくカッパ推しである。郵便ポストにもカッパが乗っていたし、人探しならぬカッパ探しのポスターもあった。マンホールもカッパであった。