正直申し上げて

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2024年12月10日

142 能町みね子 文芸春秋

週刊文春連載の「言葉尻とらえ隊」2021年10月から24年4月までを収録。岸田内閣発足あたりから能登半島地震復興支援・勧進大相撲が行われたあたりまで、コロナ禍が一応終息したような空気感になり、安倍元首相暗殺という大事件があった時期である。

前巻「皆様、関係者の皆様」の感想でも書いたけれど、時事ネタはあっという間に過ぎていき、いろいろなことが遠くに過ぎ去ってしまう。忘れちゃいけないこともたくさんあるというのに。光陰矢の如し。

ジャニーズ、宝塚、松本人志の巨大なスキャンダルが出た時期でもあった。安倍元首相の暗殺から一気に統一教会と自民党の癒着問題が出て、そしてそれが曖昧になり、ごまかされていった。能登半島地震に対し、国は手をこまねいて何もしなかった。LGBTQの人々への理解が深まりもしたが、それに対する攻撃的な論調もまた増えた。

能町みね子は、そういった出来事ひとつひとつを、彼女独自の、誰にも忖度しない鋭い切り口で書き出している。この人は賢い。日々起きる様々なことを取り上げているので、もちろん内容はばらばらだが、印象に残った話をいくつか。

女優の橋本愛がSNSでトランスジェンダー女性の入浴施設利用は「体の性に合わせて区分する方がベター」と発言した。それが炎上したのちに彼女は文春誌上の「読書日記」内で反省を示し、現状の理解度を丁寧に説明した。

「怒りや責任の矛先を間違えてはいけない」というのはすごく大事な指摘だ。これを間違える人は多い。かくいう私だって間違えることがある。何か理不尽なことが起きていると気が付いたとき、何が根源的な原因なのか、本質的なことは何なのかを見極める力は極めて重要だ。そして、その力を鍛えるには、読書が大事だと私は思っている。能町さんも、そう書いている。

もう一つ。「空飛ぶ千羽鶴」という章。これは、ブルーインパルスのことである。そもそも私は高所恐怖症なので飛行機に憧れはない。必要悪で旅行の時は乗るけどさ。そういう個人的な事情を抜きにしても、ブルーインパルスっていいか?あれを見ると、元気が出て、勇気が湧いて、励まされるか?と思っていたところへこの文章に出会い、そうか、そういうことだったのか、と腑に落ちたのだった。