38 山本文緒 角川文庫
題名通り、SNSなどでつぶやかれた日記などを集めた一冊。亡くなる直前の「自転しながら公転する」中央公論文藝賞受賞の言葉が最後に収録されていて、何とも胸に迫る。「無人島のふたり」以後、この人の書いたものはもう読めないのかな、と思ったときに見つけた本なので、大事に大事に読んだ。本として発表されることを意図した文章ではないが、SNSで一応公表はされていたのだから、私たちが読んでもいいのだろうと思って。
何でもかんでもきちんとこなして思い通りに行く、というタイプの人ではなかったのだな、文緒さん。思ったことが全然うまくいかなかったり、ついつい怠けてしまったり、ほかのことに夢中になって最初にやろうとしていたことをすっかり忘れたり。わかるよわかるよ、私も同じだもの。なんてレベルの低い自分に引き付けて共感してしまう私。自分の足で歩く旅に出てすぐ、足をくじいた自分に歯噛みしながら読んでいたというわけだ。
コペンハーゲンからローマに移動する旅路でこの本を読んでいた。私の旅も思ったようには進まず、脚はひねるし、飛行機は遅れるし、予定ゲートは変更になるし、それになかなか気づけないし、空港から市内に行く鉄道の指定時間に遅れるし、変更しようとしたらネットにつながらないし、不安と緊張でごちゃごちゃになりながらじりじりと読んだ。
文緒さんは、本当に残念だけど早くにお亡くなりになってしまった。でも、私たちだって、いつかはそちらに行く。上手にそっちにいけるだろうか、と私だって不安でいる。全然他人事とは思っていない。だからなおさら、まだ余命を知らない文緒さんが、それでも日々に苦労しながら、失敗しながら、でもやりたいことを何とかやり遂げて、ひとつひとつに満足したり、反省したりしていることが身に迫ってくる。
まだ生きている私たちは、残された彼女の文章を味わいながら、彼女の生きた痕跡を大事に辿りながら、あとを歩いている。