水族館飼育係だけが見られる世界

水族館飼育係だけが見られる世界

111 下村実 ナツメ社

副題は「毎日は発見と感動に満ちている」。筆者は大阪の海遊館の立ち上げにかかわり、その後そこで飼育に従事。京都水族館、すみだ水族館の立ち上げにかかわり、京都水族館長を経て四国水族館飼育展示部長、モンキーセンター園長を歴任。

私は水族館が好きだ。珍しい魚も楽しいし、ゆらゆらしたクラゲには心の底からうっとりする。イルカやシャチやラッコもかわいいし、カメやカエルやイグアナの大ファンでもある。あちこちの水族館を見て回ってきたつもりだけれど、この本に登場する京都水族館、すみだ水族館、四国水族館はどれも新興勢力でまた行ったことがない。早くいきたい!

水族館に展示する生き物たちは、どこかで買ってくるわけではない。まず、漁師さんたちと仲良くなって、思いがけなく見つかったり捕まえたりした珍しい水棲生物を元気な状態で分けてもらったり、探してもらったりが基本である。海遊館の目玉であったジンベエザメだって、先にジンベイザメを入れるぞ!と決められちゃってから、作者、必死に探して探して手に入れるのである。

水族館の水槽内に大きな魚も小さな魚もごっちゃに入れると、うっかりすると大きな魚に全部食べられちゃったりしそうである。これは、先に小さな魚を入れて群れを作ったり逃げたりできる環境を整え、優先性をつけてから徐々に大きな魚を入れ、十分にえさを与えることで共存させているのだそうだ。確かに「同じ水槽の仲間なんだから、食べちゃダメだよ」なんて言い聞かせたって聞きっこないものな。それもまた、繊細な技術なのだ。

それにしても、飼育は一筋縄ではいかない。水棲生物に嚙まれたり、どつかれたり、毒のある生物がぴょん、と手のひらに載ってしまったり、そりゃもういろいろある。五島列島で無事捕獲したジンベエザメが本当に元気に生きたまま大阪まで輸送できるかどうかだって苦労の連続である。漁師さんたちと良い関係性を結ぶためには連日の飲み会だって負けずに参加し続けねばならない(笑)。

人は、自分の本当に好きなことを語ると生き生きとする。この本も、作者がどれだけ水にすむ生物たちが大好きで、その素晴らしさすごさを人に伝えたいと心から願っているかがものすごくよく伝わってくる。知ってほしい、楽しんでほしい、わかってほしい、味わってほしい。水族館に行けばもちろんそれはわかるけれど、その背景にあるたくさんの出来事や苦労や楽しみが、この本には詰まっている。

かの有名なさかなクンや、元アナウンサーの桝太一氏なども最後には登場して、みんな、科学や魚のことを知ってほしい、興味を持ってほしいと頑張っていることが書かれている。身近な自然を見直すことは、自然環境や私たち人間の生き方そのものを深く考え、より賢く楽しく生きるためにも大切なことだ。水族館は、それができるとても良い場所である。ああ、水族館に行きたくなってきたぞ。まだ見ぬ水族館たち、待ってろよー。