沈黙の中世

2021年7月24日

39       「沈黙の中世」 網野善彦 石井進 福田豊彦 平凡社

私は歴史が好きで、小学生の時から、時代小説が大好物だった。大学入試に当たっては、当然、社会科は日本史選択で受験したし、苦痛のはずの受験勉強も、歴史に限って言えば、楽しくて仕方ないほどだった。入ったのは法学部だったのだが、なんで文学部に入って歴史を専攻しようという発想を持たなかったのか、と、後から自分を責めたほどだ。だけど、それはやっぱり、素人の「好き」でしかないのだなあ、と改めて思う。

この本は、夫が見つけて借りてきて、「面白いんだけど、ここに出てくる歴史上の単語一つ一つが、こんなの当然知ってるでしょ、という前提に立っているので、それが分からないと、分からないんだよなあ。」と。ふうん、それ、きっと私なら分かるわよ、なんて偉そうに言ってしまって、読んだら、やっぱり、ごめんなさいでした。知らない言葉、続出でございます。たかだか高校生まで教科書で習っただけの歴史の知識じゃ、まだ全然浅いのねえ、って改めて思う。ってか、それくらい、さっさと気づけよ、自分。

でも、面白かったっす。

最初に出てきたのが、「銭百文は何枚か」という問題。瓶にぎっしりと詰め込まれた埋蔵銭が出土する。銭はたいがい、真ん中の穴にひもを通してまとめられているのだけれど。さて、一さしは何枚か、というと、出土した場所によって、かなりばらつきはあるものの、97枚というのがとても多い。97枚で百文とする、という慣習があったと見られる場所が多いのだ。中には、86枚なんてところもあるし、きっかり100枚のところもある。

言い伝えで、目の見えない人のために三文あげるんだなんて話も残っていたり、三文は神仏に捧げるなんてこともあるらしい。せっかく発掘されたのに、調査団が綺麗に整理してしまって、さしの状態が残されてなくて、ああ、残念!なんてこともあるみたいで、考古学との連携プレーって大事ね、歴史。

次の項目の「北の中世史」も、まだまだ何もわかってない、知られてない世界なんだなあ、と、興味深かった。アンジェリスという人物を、私は全然知らなかったのだけれど、この人、知りたい!誰か彼を主人公に時代小説を書いてくれないかなあ、とわくわくしてしまう。

アンジェリスは、1585年シシリー島生まれ、1602年に来日、駿府、江戸で耶蘇会の伝道活動を行うが、1614年の鎖国令で海外追放されるところを長崎に隠れる。1616年から東北地方に移り、水沢を基地として奥羽山脈や秋田、津軽に布教、商人や坑夫に変装して1618年に北海道に渡る。それがヨーロッパ人初めての渡道。1623年に江戸で焚殺される。

そんな人がいたなんて。教科書には載ってなかったぞ。しかも、彼の残した報告書によると、中世のアイヌは原始的な狩猟民族ではなく、水田耕作を除けば農耕もしているというし、むしろ盛んな商業交易民として捉えたほうがいいらしい。

ああ、歴史って、深くて、知らないことばかり。

2011/5/23