漁港の肉子ちゃん

漁港の肉子ちゃん

85 西加奈子 幻冬舎

題名は知っていた。アニメ映画を明石家さんまが企画して、肉子ちゃんの声優を大竹しのぶが担当したという話を聞いていたから。その映画を伊集院光が見て、自分としてはとても良い映画だと思ったので機会があったら見てほしい、とラジオで言っていた。オリジナルのアニメかと思っていたのだが、西加奈子の著作リストを見ていたら同じ題名があったので驚いた。で、借りてみた。

とても、とても良い小説だった。キクりんという五年生の女の子と、その母親、肉子ちゃんの物語。肉子ちゃんは本当は「菊子」だけど、ものすごく太っていて、まるで肉の神様みたいなので「肉子ちゃん」と呼ばれている。キクりんは「喜久子」だけど、お母さんは「キクりん」と呼ぶ。おかあさんと違って痩せているし、どんなに食べても太らない。聡明でかわいい女の子だ。

東京から漁港に流れ着いた肉子ちゃんは焼き肉屋で働いている。貧乏だ。キクりんは、だけどその中でちゃんと育っていて、学校でもうまくやっている。でも、小学生女子五年生なりのトラブルはいろいろある。そのトラブルへの向き合い方が、とてもいい。仲間外れや意地悪も、誰が悪くて誰が良い、ではない。誰もが自分を何とかしたいと一生懸命やっていて、時に間違ったり、傷つけあったりしてしまう。でも、よく考えて、気が付いたり、軌道修正したりもできる。どうにもならないこともあるけれど、その中でちゃんと生きようとしている子どもたちの姿がいとおしい。

肉子ちゃんとキクりんの関係も、だんだん見えてくる。少しおかしなところのある肉子ちゃんや、その周囲の人たちとの関係、そしてキクりんが抱えていた問題。それらが少しずつ読み解かれていく。温かい物語だ。

この物語のモデルは石巻市の漁港だったという。だけど、書いている途中で震災が起きて、書き続けるかどうか、作者は迷ったという。小説にできることなんて、何もない、とわかっていたつもりだけれど、やっぱり打ちのめされた、と作者は言っている。だとしても、物語は残るし、それが誰の力になるのかなどを考えずに、この物語を慈しもうと思ったという。そのあとがきも、胸にしみる。

こういう世の片隅にある、きらりと光るような人たちの物語が私は好きだ。私もその中の一員でありたいと願う。きらりとは光らないかもしれないけどさ。

どんなアニメだったのかな。見損ねたけど。機会を見つけて、見てみたい。