火明かり

火明かり

89 アーシュラ・K.ル=グウィン 岩波少年文庫

「ゲド戦記」シリーズ最後のストーリーと講演記録、エッセイなどを収録した一冊。ル=グウィンは「暇なんかないわ、大切なことを考えるのに忙しくて」以来である。

かつて彼女は「ゲド戦記」三巻までをあっというまに書き上げた。だが四巻目を書こうとして、自分は登場人物であるテナーのことを何も知らない、と気が付いた。彼女はやがて、自分が抱いている欠落感は、物語の中心から女性が欠落していることによるものだと気が付く。18年という年月を経て、第四巻は書かれた。それから十年ほどの間をおいて、五巻が書かれ、そして六巻が続いた。これほどの長い間、彼女はずっとこの物語と対峙し、考え続けていたのだ。フェミニズムの思想がそれを助けてきた。

この本に収録された物語は、独立して読むこともできる。が、どうしても、もう一度「ゲド戦記」を最初から読みなおさねば、という気持ちにさせられる。うちにある「ゲド戦記」は、もう茶色く染まり、紙もめくりにくくなっているけれど。でも、ひとたび開けば、もう一度あの世界に戻れることは確かだ。

ゲドの最期を読む。私たちも年老いた。作者は雄々しく亡くなった。(雄々しく、と思えるのは「暇なんかないわ、大切なことを考えるのに忙しくて」のおかげである。)どうやって私たちは老いていけばいいのか。最期をどのように迎えればいいのか。そんなことも含めて、この物語をもう一度読み返したい気持ちになる。