照子と瑠衣

照子と瑠衣

114 井上荒野 祥伝社

「猛獣ども」以来の井上荒野。2023年出版。70歳の老女二人の友情冒険(?)物語。清々しいというか、スッキリするというか。一気に読んでしまった。面白かった。

妻を見下す夫を捨てた照子と、派閥争いのひどい老人マンションの陰湿な人間関係から逃げ出した瑠衣。二人は、長野にある、冬の間空き家になっている誰かの別荘に忍び込み、暮らし始める。すべてを捨てて生きたいように生き始める二人の痛快な物語。

映像化したら面白いだろうなあと思っていたら、NHKがドラマ化していた。照子を風吹ジュン、類を夏木マリが演じたというから見ればよかった!絶対はまり役だ。

それにしても。老人マンションの派閥争いのエピソードに、過去のいろいろなことを思い出してしまった。転校生だったからね、私。どこに行ってもクラスには派閥があって、最初はどの派閥からも珍しがられ、引き込もうとされる。だけど、どこにも所属しないとわかると、とたんに嫌がらせや意地悪が始まる。それだけならまだしも、ある日突然、一斉に無視が始まるのだ。まるで空気みたいに扱われる。反駁しあっていたはずの派閥が、その時だけはまるで示し合わせたように、同時に無視を開始する。この物語でも、シャンソン歌手の瑠衣がステージに立つと、両派閥がさっと席を後ろ向きにして拒絶する。いくつになっても、どこに行っても、こういうことはあるのだなあ。

そういえば、うちの娘も同じような目に遭わされたことがあった。こういう時はどうしたらいいのだろうね。無視はダメですよ、皆と同じようにお話ししましょうね、なんて大人が言っても何の意味もない。無視される側も、それを大人にいなされたり、ましてや自分が苦痛を感じていると相手に知られることすら自尊心にかかわる。人生にはどうしようもなく理不尽で嫌な目に遭う時期があって、それは誰にでもあって、でもいつか何とかなるものだと学ぶ機会にするくらいしかない出来事。その期間、どんなにつらくても、どこかに安心できる場所があって、誰か信頼できる人がいれば、何とか乗り越えられるものだ、としか私には言えない。この歳になっても、まだそれしか言えない私。でも、本当に嫌で苦痛なら、逃げちゃったっていいんだよ、とは思う。実際、この本で照子と瑠衣は逃げ出した。そこが痛快。

70歳だから、失うものがほとんどないから、だからこそ手にできる自由もある。でも、やっぱりそれはお金と健康がなくちゃね。それは私もこんな歳になってしまったからこそ思うことだ。動けるうちに、お金も使える内に、やりたいことはやらなくちゃ。残された時間を有意義に。なんて最後は年寄りの繰り言みたいになってしまう感想だが。でも、爽快だった。良い小説であった。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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