123 梶原阿貴 ブックマン社
ミステリ小説かと思ったらノンフィクション。比喩的タイトルかと思ったら、本当のことだった。衝撃。
作者の子ども時代。母子家庭だということになっていたが、実は家には父親がいた。奥の部屋でひっそり暮らし、靴はない。名前もわからない。作者は下校後は母の働く店に行き、仕事終わりに一緒に帰る。家の鍵は母しか持っておらず、友達を呼んではいけないし、どこに住んでいるかも知らせてはいけない。父がいることも秘密。帰ると「お帰り。僕も今帰ったところだよ。」と父は言い、母は「お仕事お疲れ様。今ご飯にするわね。」という。作者が登校した後に仕事に行き、作者より前に帰宅していた風を装っているが、実は父は家を一歩も出たことがない。トイレには尿がたまったまま。流す音で存在がばれる危険があるからだ。
作者の父親はクリスマスツリー爆弾事件の実行犯の一人であった。妻にかくまわれ、十六年間、潜伏逃亡していた。作者はその中で生まれた子であった。
絶対に交番の前を通ってはいけない、困ったことがあっても110番してはいけない、いざという時に逃げられるように枕元に必要なものを入れたカバンを置いてから寝る。朝、目覚めて両親ともいなかったらこの中を見なさい、とお守りを渡され「私たちがいなくなったら一人で強く生きてね」と作者は言い聞かされていた。
なんと残酷な親だろう。子どもは毎日、明日の朝、一人ぼっちで寝覚めるかもしれないと思いながら寝る。いくつもの秘密を抱え込まされ、それがなぜなのかも教えてもらえない。親は子のためを思ったのかもしれないが、それがどんなに心の負担になり、傷つけたことか。
それから父がどうなったか。母がどうなったか。作者はどのように大人になったのか。それが描かれた作品である。作者は若くして役者になり、いくつか映画作品にも出ている。その後、脚本家に転向し、高橋伴明監督による「桐島です」の脚本を手掛けるに至る。桐島とは、1970年代の連続企業爆破事件に関与して約半世紀の間指名手配され、最期に本名を明かしてなくなった人である。
子は親を選べない。生まれてみたら高貴な血筋だった人も、爆弾犯の娘だった人も、娘を性的に虐待する父の元に生まれた人も、みんな選んだわけではない。何も悪くないのに、生まれた時から苦悩を抱えさせられる。
この本は面白かったが、私は腹が立ってならなかった。この父も母もなにをやっているのか。とりわけ父親。逃げるために一人の女性を巻き込み、子どもを産ませた。彼を支えるために苦労して働く妻は、帰宅後に彼のために料理をし、彼は黙ってそれを食べた。たくさんの餃子を作ったら、それを父があらかた平らげて笑っていたエピソードが書かれている。子育ても、母親だけの仕事だったようだ。女が、好いた男を支えるのは当たり前のことだと思っていたのだろうか。人民のために、人々の平等のためにと言いながら、自らの女性差別に気づきもしなかったのだろうか。
この本を書くことで、作者はどこか救われたのかもしれない。思いのこもった本であった。これが書けて良かったね、と心から言いたい。良い人生を、と願いたい。
