牧水の恋

牧水の恋

2021年12月14日

114 俵万智 文芸春秋

「白鳥は 哀しからずや」の歌を中学の教科書で知ったときは感動した。色合いの美しいコントラストと、真っ白であるが故の哀しみという表現が胸に響いた。思春期だったしね。それから、牧水の歌をいくつも探して読んでは素敵だ、かっこいい、なんてロマンチック、と乙女心を震わしたものだ。だが、牧水って実は酒乱だったらしい、とか、人妻とのいけない恋に破れて自暴自棄だったらしいよ、なんて情報もだんだん入ってきて、最終的にはちょっと嫌な感じもあるなー、と認識していた、それが二十代前半だか。あれから幾星霜。立派な中年となって読んだ「牧水の恋」で、牧水って「だめんず」じゃん!!の思いを新たにした私である。

実は自分は牧水チルドレンだった、と気づいた俵万智が丁寧に調べて書き上げた牧水評伝。若いころの自分の歌を改めてみると、牧水の影響が当時思っていた以上に色濃いことに気が付いたのだそうだ。没後、後年の評論家がそのことを指摘してくれればいいが、あんまり期待できそうにないので自分で指摘したというあたりがお茶目である。彼の恋愛の歌、とりわけ恋人の小枝子といった安房旅行で詠んだ歌の数々を中心に、彼の恋を追っている。そこにはこれまで知られていなかった衝撃の事実もある。いや驚いたね、本当に。

牧水も、恋人の小枝子も、ダメじゃん、と思う私である。若いって盲目だからね。結局、恋愛って、浸っている自分たちには美しいものであっても、外側から見るとおっぱずかしいものだよなあ、と身も蓋もない感想を持たずにはおられない。恋が成就しなくって、酒浸りになったり、悪い病気にかかったり。自分を見失いすぎだよ、しっかりしろよー、牧水、と言いたくなる。そのおかげであの美しい歌たちができたのは確かなのだけれどね。人としてどうよ、と思ってしまうおばちゃんの感想も、また一つの真実ではあるかも。なんか、太宰治に似てる気もする。

作品と作者の人格は別だからね。そう思っていないと読めない文学作品って、いっぱいあるから。牧水の歌は、確かに美しく、耳に心地よく、この本に登場する歌の多くを私は覚えていたし、大好きだった。それは確かなことだから。それで十分だから。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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