172 桐野夏生 毎日新聞出版
図書館で上下巻を予約したらなぜか下巻だけ先に来て、いつまでも上巻が来ないので、一度返却して再度予約を入れたらまた下巻が先に来て、でも今度はほどなく上巻も手に入った。会いたいのになかなか会えない彼氏にようやく会えたみたいな(笑)。でも、中身は甘くない、苦く痛い話であった。
バブル期の証券会社が舞台の物語。あのころは時代がおかしかったんだなあ。と言っても、私はほぼバブルには無縁で生きてきた。株に手を出さないでよかった。当時「NTT株が買えるみたいだけどどうする?」という話があって、買ってしばらく置くだけでお金が倍増するなんてなんか怖い話だと思った。断って良かった。あの時大儲けしてたら、そこで感覚が狂って手元のお金をつぎ込んでいたかも。何もしないのに株を売るだけでお金がじゃんじゃん手に入ってくるって、そんなのおかしい、それじゃ誰も働かなくなるじゃん、と若い若い私は思った。今も基本的にはそう思っている。種をまいて野菜を育てるとか、漁に出て魚を取るとか、そういう仕事と比べると、なんという虚業だろう、とどこかで思う。お前は経済を知らない、と叱られるだろうけれど。
お金をあらんかぎり集めて株につぎ込むと、とんでもなく膨らんでいくあの時代。それに有頂天になった証券会社の社員やその妻。そんな彼に投資を託した地元のヤクザ、その愛人、投資を指導した仕手筋の男。同時期に証券会社にいながらそれほど株につぎ込まず、上手に売り抜けたはずなのに、やっぱり時代に翻弄される、自力で大学に行こうとしている高卒の女子社員。彼らの苦い人生が描き出される。桐野夏生の書く小説はいつだって苦くて痛くて、どこかぞっとする。でも、怖いもの見たさで読んでしまう。
何百万もするエルメスのケリーバッグをいくつも持っていることや、銀座のマンションに住むこと。それってそんなに魅力的なんだろうか。私は全部いらないけどな。そういうものでしか自分の価値を確認できないような人生はむなしい。高い酒を毎日浴びるほど飲んで、金があるから寄ってくる優しいイケメンのホストにかしずかれても、私はひとつも嬉しくない。それよりは、毎日読める本があって、時々旅に出て思いがけない体験をする今の生活のほうが、はるかに幸せで楽しい。そう思えてよかったなー、というのが最終的な感想になったわけだ(笑)。