神よ憐れみたまえ

神よ憐れみたまえ

73 小池真理子 新潮社

小池真理子は読んだことがなかった。でも、新聞に連載された「月夜の森の梟」は毎回、しみじみと読んでいた。夫の藤田宣永に病が見つかってから亡くなるまで、そしてその後の日々を描いたエッセイ。身を切るようにつらく苦しい、それでも生きていくより仕方ないと考える、心にしみるエッセイだった。それで、この人の小説も読んでみようと思ったのだった。

私は人が殺される話が苦手である。だが、この小説はしょっぱなに子を持つ親が二人も殺される。もうやめようかと思った。だが、やめられなかった。それだけの牽引力のある物語であった。両親を殺人事件でいきなり失った、百々子という小学六年生の女の子がこれからどうなるのか、目が離せなかった。彼女は生き生きとして強い子だったし、そばにいるたづさんという家政婦も素晴らしかった。

どうにも我慢ならない男たちも出てきた。どんなに苦悩しても許せない人間もいた。理解できない思考の人もいた。その中で百々子は日常を生き、そして六十歳を超えるまでが描かれた。これは、単なる犯人捜しのミステリではないし、ハッピーエンディングでもない。ただ、一人の人間の生涯を真正面から描いた物語である。人が生きるとは、こういうことかもしれない、と思うような物語だった。

性的な問題に対し、思うところはあったが、私は男ではないのでわからない部分もある。普通の…大人の男性と大人の女性が愛し合うことだけが正しい性愛だとも思わない。様々な形の愛はある。そして、人は自由だ。だが、小児性愛の嗜好だけは、私には理解できない。容認できない。まだ何もわからない無力な弱い存在を性の対象とすることは暴力ではないのか。ただ、それを心の奥底に持ち続けることはだれにも止められない。理性でそれを内部に押しとどめるのが人間である、と思う。

本筋とどれだけ関係があるかはともかくとして、そんなことも考えた。分厚い本なのに、一気に読める本だった。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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