135 安野光雅 講談社
「オランダの花」以来の安野光雅である。先日、栃木市美術館の「生誕100年 安野光雅展」に行ってきた。絵本で散々見たことのある絵ばかりなら見に行く必要もないかな、と思ったりもしていたのだが、全くそんなことはなかった。原画の力は素晴らしい。画家の息遣いや筆の勢い、何を思い、何を目指して描いたのかが、絵本の何倍もの強さで伝わってくる。何よりも、安野さん、これを描くとき楽しかっただろうなと思わずにいられない喜びの感情が伝わってきて心が満たされた。良い絵ばかりだった。
美術展から帰ってきてこの「即興詩人」を探した。古い本だったが、生き生きとした美しい絵があふれんばかりに載っていた。かつてアンデルセンの「即興詩人」を森鴎外が翻訳した。それを元本にして、引用を含めながら安野さんなりの即興詩人解説がこの本では語られている。そして、舞台となった場所の絵の数々がちりばめられていた。即興詩人のアントニオと、それを書いたアンデルセンと、そしてそれを追った安野さん。一緒にイタリアの各地を旅してまわるような贅沢な時間であった。数年前、私たち夫婦もイタリア各地を旅したのだが、その時とほぼ変わらない風景が描かれていた。そう、イタリアの風景は変わらない。遠い昔から、あの国は伝統的な景観を大事に保存し、その中で人々は生活してきたのだ。歴史と時間の重みに、私は打たれた。
「即興詩人」のストーリーは、ややご都合主義の感がある。めぐり逢いの奇跡と偶然に支えられた恋愛をうたっている。鴎外は、ドイツに残してきたあの恋人を思いながらこの物語を訳したのだろうか。自ら捨て去ってしまった恋愛を思い出しながら書いていたのだろうか。
イタリアにもう一度行きたくなった。この本は、というより「即興詩人」は旅のガイド本としての役目も果たすような気がする。
