美土里倶楽部

美土里倶楽部

88 村田喜代子 中央公論新社

大好きな村田喜代子さんの新作。「中央公論」に2023年5月から2024年7月まで連載されたもの。

主人公は美土里という高齢の女性だ。ある晩、夫がベッドから落ちた。身体が麻痺してもがいているうちに落ちたのだ。起こそうにも重すぎて起こせない。寒いというので毛布を掛けてやり、途方に暮れる。看護師をしている娘に電話し、救急車を呼んでもらい、夫は病院に搬送される。コロナ禍で夫との面会もままならない。夫は急性期を持ちこたえ、リハビリに励む。退院の話が出、リハビリ施設には入らず帰宅することになる。その準備を進める中、夫は重度の肺炎を起こし、八日ほどして亡くなる。

この展開が、二月に亡くなった母と重なる。ひとつの困難を乗り越え、リハビリが順調でも、高齢者はちょっとしたことから合併症を起こし、それが致命傷となる。どこにでもある話なのだろうけれど、何ともやり切れない。だが、物語は、そこから始まるのだ。

夫の死後、美土里は自分が未亡人であると気が付く。未亡人とは古代中国で夫が死んだあと、その後を追うこともせず、生き残っている妻のことである。死なねば当時の社会に入れてもらうことが出来なかったという。住むところも家も親族もなくしてしまうのだ。それでもついに死ねなかった妻もいたので「未亡人」という言葉が残った。

美土里倶楽部はそんな未亡人たちの集まりである。様々な場所で知り合った未亡人たちが、互いに助け合い、語り合い、共に出かけ、様々なことを得ていく物語である。時に小さな子供たちのエピソードも交わる。幼稚園児たちがダンゴムシをポケットに入れて持ち帰るのをやめさせるために保育士たちが園児を諭す。その過程で、ダンゴムシのためのお経が作られる。

なかなか本物のお経に似たよくできたフレーズである。

未亡人たちは、亡き夫について語り合う。良いことも悪いことも出てくる。夫のために句集をつくるものもいて、そのためのパソコン教室も行われる。お盆で魂を迎えるため、皆で田舎に出かけたりもする。

こうやって女たちは支え合い、慰め合い、分かり合って生きていく。村田喜代子さんの小説には、年老いたたくましい女性がよく登場する。彼女たちは淡々と助け合い、日々を暮らす。その強さ、弱さ、寂しさ、逞しさが静かに描かれる。

私はこんな風に老いられるのだろうか。こんな風に生き抜けるのだろうか。そんなことを思わずにはいられない本であった。