老いの福袋 あっぱれ!ころばぬ先の知恵88

老いの福袋 あっぱれ!ころばぬ先の知恵88

94 樋口恵子 中央公論社

今日、掃除中に「この台所用の雑巾、どこにかけておくの?」と夫に聞かれて「えーっと、なんだっけ、台所の、掃除機じゃない、あれなんて言ったっけ、そうだ、冷蔵庫だ。冷蔵庫の横にかけておいて」と答えた私。「掃除機じゃない、あれなんて言ったっけ」と言いおったぞ、こいつ、と自分で思いましたです、はい。ああ、老いは確実にやってきている。

樋口恵子さんも88歳か。うちの母とほぼ一緒だわ。老いの現実は十分想像できる。この本のしょっぱな、京都駅の公衆トイレが和式だった話。用を足し終えて、やれやれと思ったら、なんと立ち上がれない。手すりもない、じめじめした床に手をつく勇気もない。どう頑張っても立ち上がれないので、結局、トイレットペーパーを床に敷いて、そこに手をついて、ようよう立ち上がったそうだ。鍵のかかった個室でとんでもないことに。これはもう、他人事ではない。最近はあまり見かけなくなったが、それでも地方の駅などではいまだに和式がある。急を要して入ったはいいが、立ち上がれなくなったご老人はほかにもいたかもしれない。

オペラ好きの友人が足しげくオペラに通っていたが、長丁場のオペラの舞台の途中でどうしてもトイレに行きたくなるのであきらめた話も載っている。そのころ、紙パンツや給水シートがまだ大っぴらに売っていなかったから。今なら大丈夫かも、と書いてある。ああ、これも他人ごとではない。母が同じようなことを言っていたっけ。排泄は切実な問題だ。亡くなった父も晩年は排便関連でどれだけ周囲を困らせたことか。それは、馬鹿にしたり怒ったりして済む問題では全然ないのだ。明日は自分に起きるかもしれない問題。

老いとはどんなものか。どんなことが起きるのか。それに対して何ができるのか。準備しておけることはあるのか。どんな心持ちでいればいいのか。どうやって明るく老いを迎え撃てるのか。そんなことが88項目、書かれている。

最後の章は「老年よ、大志を抱け!」である。高齢社会問題は他人事ではない「自分ごと」として向き合うことが大事。そして、長寿は平和ありてこそ。と、しっかりと書かれている。ああ、そうだ。平和ありてこそなんだよ。これから怖い時代がやってきそうで、私は暗澹たる思いでいるのだけれど。どうか平和であれますように。安心して長寿を喜べますように。できることをやっていくしかないね。

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サワキ

読書と旅とお笑いが好き。読んだ本の感想や紹介を中心に、日々の出来事なども、時々書いていきます。

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