自転しながら公転する

自転しながら公転する

2021年7月20日

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山本文緒を読むのは「なぎさ」以来だ。七年ぶりか。この人、やっぱりいいものを書くよな、と思う。

最初に結婚式直前のシーンから始まる。しかも、場所はベトナム。え?どういうこと?と思うと、すぐに舞台は牛久大仏のお膝元に移る(笑)。なんだったんだ・・・・。と、ずっと不思議に思いながら読みすすめることになる、覚悟して。

これは恋愛小説だ。内省的な女と、料理が上手で、ちょっとしたことではあまり動じないような落ち着いた若い男の恋愛なのだが、そうそう一筋縄には行かない。仕事に、親との関係に、看護、介護に、セクハラやパワハラ、学歴の問題まで絡んでくる。どれもうまく行かないし、主人公が森ガールみたいに可愛い服が好きな理由にだって切実な背景があることがわかってくる。人生は簡単じゃない。幸せになるって難しい。

それでも、まっすぐに生きている人は気持ちいい、信じられる、と思えてくる。間違ったり失敗したりすることはあるけれど、誰かをきちんと好きになって、その人のためにがんばることにはやっぱり意味がある。打算や嫉妬や自分をよく見せようという欲望も、本当の気持ちの前では全部まっぱだかになってしまう。

穏やかなラストが美しいと思う。人生、結局はこんなんでいいよな、と思う。いろいろあるけど、生きてるっていいよな、と思う。そう思える小説が、私は好きだ。