菌の声を聴け  タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案

菌の声を聴け タルマーリーのクレイジーで豊かな実践と提案

2021年8月31日

70 渡邉格・麻里子 ミシマ社

自家製酵母と国産小麦だけでパンを作る。そんな試みをしていた夫婦のパン屋が千葉県から岡山県へ、そして最終的には鳥取県智頭町へと移住して、いまはビールも作っている。どうしてそうなったのか、いまはどうなっているのか。数多くの失敗や困難や、喜びや面白さ。その中での子育てや生活も含めてありのままを語った本。

自然でなければ、オーガニックでなければ、というガチガチの原理主義、頭でっかちな感覚から、楽しい、面白い、なんとかなる、という方向に風が流れていく。そうじゃないと人間はやってられない。

町おこしや地域の再生プロジェクトとうまいこと歯車もあって、新天地を見つけたこの夫婦。都会で生きるだけが全てじゃないよねえ、と東日本大震災やコロナを経て、わたしたちはつくづくと思い知ったものね。

タルマーリーのパンを買って食べた。どっしりとして素朴で食事に相応しいパンであった。ビールもぜひとも飲んでみたいと思う。

菌が食べ物を発酵させる。それは、命が命を支える、ということでもある。食べ物を作ること、醸すこと。そういうことの価値を、わたしたちはもっと大事にしたほうがいいんじゃないかと思う。スタイリッシュでかっこいいアーバンな暮らしより、噛みしめるとしみじみ美味しいパンと、素朴なビールを味わう生活。そっちのほうが断然いい、と私は思う。