54 島津輝 文芸春秋
初めましての作者。直木賞候補作だそうだ。いい物語だった。
大正十五年から昭和二十五年までの二人の女性の話。主人公、千代が親の決めた結婚相手の家に嫁いだら、そこには聡明で信頼できる女中頭のお初がいた。千代の父親と結婚相手、茂一郎の父親は親友同士だったが、茂一郎と千代はろくに顔も見たことのない仲だった。茂一郎との仲はなかなか進展しないが、お初は千代をよく助け、千代は初に頼り、それなりに楽しい生活となった。そこからの、彼女たち二人の四半世紀の姿が描かれている。
今やっている朝ドラ「虎に翼」もそうなのだが、女性の成長と女性同士の友情の物語ってとてもいい。そして、そういうテーマは今までそれほど描かれてきていないような気もする。子ども同士の友情ならあるけれど、大人になってからの女性同士の友情物語ってあんまりない気がする。「女の敵は女」とか「女の友情は薄っぺらい」なんて言われるけれど、私の経験上、そんなことはない。私はいろいろな場面で女性の友達にとても助けられてきたし、私も助けてきたと思う。そして、それは男女の情愛とはまた全然違った確かな絆だと思う。
この物語は、年齢も立場も違う二人の女性の間に確かにある友情の歴史である。信頼と敬意と思いやりと愛情に満ちた関係性は、楽しい時も苦しい時も彼女たちをしっかりとつないでいる。性的な話も出てくるが、じめじめせず、日常の中の自分ごととして、真正面から臆せずに描かれていてむしろ潔い。それにしても飛田遊郭で生み出された「花電車」という芸者の芸の名前の由来には驚いた。ともすれば下卑た話になりかねないそんな話題すらも視線を偏らせることなくまっすぐ受け止められる。
良い本であった。そしてこんな物語が書かれるようになったのだなあとつくづく感心する。女性が自分たちのことをありのままに言葉にできる時代が来ている。それはとても良いことだし、もっとそれが広がっていけばいいと思う。