129 最相葉月 ミシマ社
最相葉月を、最初はニッチな分野のノンフィクションで知った。以来、他の人があまり取り上げそうにないテーマばかり選ぶ人だなあと思ってきた。よほど自身の世界に入り込む、まじめて思い込むタイプの人なのだろう、と想像していた。だが、どうやらそうでもないらしい、と「最相葉月のさいとび」あたりで気が付いた。そしてたどり着いたこの本。相談者の耳に痛いことでもずばずばとモノ申し、でも決して的外れではなく、説得力がある。ささやかなユーモアのエッセンスも常に忘れない。なかなか大したものである。
人生相談は、相談者のみならず、相談を受ける側の人間性も明らかにする。もう購読をやめてしまったが、朝日新聞における上野千鶴子氏の人生相談は留飲の下がるものが多かったし、今購読している東京新聞の伊藤比呂美氏の人生相談も、飾らず堂々としていて、温かい。そして、この最相葉月の人生相談は、読売新聞掲載らしいが、これまたきっぱりしていて小気味いい。
人生相談は、相談者自身に見えていない、気が付いていないポイントをいかに見つけ出し、そこから道筋をつけられるかが重要だ。本人が、絶対に変えられないと思っているものが、実はすぐさま変更可能だったり、捨ててしまって構わないものであることも多い。相手に問題があると思い込んでいたが、実は問題があるのは自分自身だったりもする。そういうダイナミックな視点の転換が無理なく行われ、説得力を持つとき、人生相談は読み物としてたいそう面白い。
「突然離婚切り出された息子」「半世紀前の離婚を後悔」。本人は大まじめで相談してきているが、その根底にある自分勝手な思い。それをきっちり言い当てる最相氏。そして、これからどうしたらいいかをきっぱりと宣言する。胸がすく思いである。
それにしても、人は本当に様々な悩みを思い抱き、そこから抜け出せないものである。人と自分を比べたり、自分を本物以上によく見せようという欲を捨てるだけで、もっと楽に生きれるのになあ、と読み終えてつくづく思たのだった。