途上の王国

途上の王国

103 沢木耕太郎 スイッチ・パブリッシング

正式な題名は「一号線を北上せよ モロッコ天涯編 途上の王国」である。以前「天涯」という彼の写真集を何冊か読んだ(見た)ことがあるのだが、そのころの旅の様子を、ずいぶん経ってから文章に起こしたということらしい。旅自体は、1990年代後半だと思われる。

沢木耕太郎の傑作である「深夜特急」がその当時、ドラマ化された。実際にインドのデリーからイギリスまで乗り合いバスだけで旅をするという撮影だった。ドラマ撮影が本当にロンドンに到着したら、そこに迎えに行くという約束を果たすためにロンドンに行った沢木耕太郎。彼は、若かりし「深夜特急」当時、なぜ自分はジブラルタルからモロッコへ渡らなかったのだろう、という疑問につきあたる。もしアフリカ大陸に渡っていたら、帰国はもっと遅くなり、違う人生になっていたかもしれない。仕事も整理してきた今、その気になれば、行くことだってできるじゃないか。

彼は、そこからバックパックを買って荷物をまとめ、本当にジブラルタルからモロッコへ旅を始める。アシラ、タンジール、マラケシュ、メルズーガ、リッサ二、フェズ。バスに乗り、到着した場所で宿を探す自由な旅。仕事を辞めて旅に出た日本人女性ふたりと連れだったり、ガイドブックに支配された白人たちに同行するはめになったり、サハラ砂漠に長く滞在し、うっかり遭難しそうになったり、知り合った現地の人の家に泊めてもらったり。風景に圧倒され、地元の食べ物を味わい、思わぬ出会いを繰り返す。

懐かしい「深夜特急」の再来である。あのころと比べて、気力体力は多少衰え、でも、お金は前より持っている。だとしても、旅のスタンスは、ほとんど変わらない。安宿に泊まりながら、高級ホテルのバーでドライジンを飲んだりはするけどさ(笑)。

ジブラルタルからタンジェには、数年前、私たちも渡った。異国情緒あふれる素晴らしい旅だった。でも、あれはまだほんのとっかかりだったのか。この本を読んだら、モロッコのもっと奥深くへ行きたくなってしまった。街の広場で、炭火で焼いたモツをモロッコパンにはさんでミントティと一緒に食べたい。赤い砂の小高い丘がどこまでも続くサハラ砂漠の朝日と夕日を眺めたい。ああ、そんな気力体力が、まだ私に残っているだろうか。