116 名取佐和子 実業之日本社
初めましての作家。美しい青春小説だった。すごくよかった。
何度か書いたことがあるけれど、私は自分の高校が嫌いだった。よく言われる人間関係とかじゃなくて、とにかくまともじゃない授業を平気でやったり、理不尽で意味のない校則で生徒を縛る教師たちや学校の体制が大嫌いだった。今思うと、そんな場所でも、今でも続く良き友人と巡り合ってはいたのだけれど。でも、高校時代は暗黒だったし、こんな高校辞めたいと思い続けながら、結局、卒業した。学校行事も、修学旅行も、良い思い出などほとんどない。今思うと、それでもその環境の中で自分なりに楽しむ工夫や努力をしたら、また違った学生生活があったのかもしれない。けれど、頑なですべてを拒絶する心を抱えた私には、それは無理だった。だから、こんな清々しい青春小説を読むと切なくなる。
清々しいと書いたけれど、この物語の中の高校生たちは、みんな苦悩している。間違ったり失敗したりしつづける自分を許せなくて右往左往している。そんな彼らを支えるのが宮沢賢治の作品や、それを愛する大人たちだ。そして、自分のことは許せなくても、仲間の良いところ、すごいところを認め、敬意をもてるまっすぐさが彼らにはある。(私にはなかったことかもしれない、と改めて思う。)
宮沢賢治は、すぐれた作品を残し、たくさんの人に慕われたけれど、間違ったり失敗もした。そして短い人生を駆け抜けた。「銀河鉄道の夜」には「誰だって、ほんたうにいいことをしたら、いちばん幸なんだねえ」というカムパネルラの言葉が残されている。そうか、その言葉はこんな風に受け止めることもできるのだな、とこの歳になって私は教えられる。高校時代の私のカチカチの心には届かなかった、宮沢賢治の言葉が、今なら受け止められるかもしれない、と思ったりもする。
もう一度宮沢賢治を読み返してみようかな、と思った。うちの書棚にある宮沢賢治の数冊の本は、もうまっ黄色になって、紙もなんだか膨れているけれど。私もイーハトー部に入部してみようかな。