青嵐の庭にすわる

青嵐の庭にすわる

6 森下典子 文芸春秋

「神様のお父さん」で知った本。映画「日々是好日」をめぐる原作者と映画人たちの数年間の物語である。

作者の森下典子さんはお若いころからお馴染みである。雑誌「週刊朝日」の「デキゴトロジー」執筆のころから愛読している。学生時代からこの方がアルバイトしていた新聞社。そのほぼ同じ部署で私もアルバイトをしていた。あの場所の空気を知っているからこそ、彼女の書くものがよりよくわかるような気もしている。

映画「日々是好日」もリアルタイムで見ていた。穏やかで静かな良い映画であった。樹木希林さんが素晴らしかった。お茶の先生役だというのに一度も濃茶の点て方の練習をしないので、監督、スタッフが説得しようとすると「練習はしません!」ときっぱり言った樹木希林のエピソードが「神様のお父さん」には載っていた。では、どうしたかを知りたくてこれを読んだのだ。なるほど、女優さんというのはすごい能力を持っているものだな、と改めて感嘆した。樹木さんがとりわけ優れていらしたのかもしれないが。

就職も決まらず、これからの人生をどうしようと茫然と佇んでいた数寄屋橋交差点の風景が、最初の方に描かれている。その同じ場所で、私も同じように茫然としていたことがある。そこからはや40年。森下さんが思わず涙したように、私もあの頃を思い出してしみじみしてしまう。曲がりなりにも生きてきた。割と良い人生だったではないか。

ひょうひょうと生き、堂々と死んでいった樹木希林さんのお姿が胸にしみる。そんな風に立派にはできないかもしれないけれど、頑張って生き抜いてみようと思う。良い本であった。森下典子さん、素晴らしかったです。