44 須賀敦子 河出文庫
キングダムを読み切って途方に暮れていたら、夫が読み切ったからと渡してくれた本。ありがたや、ありがたや。これでおしまいだと思って、大事に大事に読んでいたら、羽田に着いた時点でまだ読み切っていなかった。やれやれ、無事に本を切らさずに旅が終わりましたとさ。そういえばこれの第1巻も同じようなシチュエーションで夫から借りて読んだような覚えが。
1957年から1992年までのエッセイが収録されている。須賀敦子は私の両親とほぼ同年代の人なのだが、小学校から英語を教えるミッションスクールから大学院まで進み、戦後フランスに留学、このころにイタリア語も学び、帰国して一度は仕事に就くが、またイタリアに渡り、そこで結婚。夫の死後、帰国して大学で教えながらエッセイなども書くようになる。すごい経歴の人だ。エッセイは海外在住のころの話が多く、当時の一般的な日本人とはかけ離れたようなエピソードが多い。知的でカッコいい、とも思うが、育ちが良すぎてスノッブで鼻につく、とも言えそう。
病床の父の頼みでヨーロッパのとある駅に停車中のオリエント急行のドアを叩き、車掌に、父が病気であること、遠い昔、オリエント急行に乗った思い出があること、その父の頼みでオリエント急行のカップとソーサーを譲ってほしいことを話し、ナプキンに包んだティーセットを「差し上げます」ともらったなんて話、どうよ。そもそもが車掌にそれだけのお願いをする語学力がまず私にはないし、かつてオリエント急行に乗った思い出のある父もいない。相当のお金持ちの子女じゃないと引っ張り出せないエピソードだわ、なんてついつい思っちゃう。
と僻み半分で読みもするのだが、それでもこの人のエッセイはすごい。真摯だし冷静だし自分を突き放す強さもある。いつの間にか引き込まれて、彼女の目で世の中を見始めている自分に気づいたりもする。
イタリアやフランス、それに日本も九州や関西など様々な地域が登場するのだが、ちょうどイタリア旅行中だったし、日本各地も知っている場所が多くて、何とも親しみのある土地の話に臨場感があった。やっぱり旅行中に、その場所を舞台にした本を読むのはいいものだ。