44
「飛族」村田喜代子 文藝春秋
娘のところへ尋ねていった。新幹線を乗り継いで、五時間もかかる。本を何冊持っていくか、は重大な問題である。多いと重い、少ないと足りない。今回はこの本を含めて三冊。実にちょうどいい選本であった。って、自画自賛してどうする。
村田喜代子は大好きな作家である。もう、舐めるように読んでしまう。この人の書く文章一つ一つが内蔵に染み渡るような気さえする。一作ごとに凄みが増し、畏敬の念に打たれるほどだ。前回は老人ホームの話だったが、今回は離島に住む二人の老女の話である。こういう話に心を鷲掴みにされるのは、自分も老いてきたからなのだろうか。
かつては漁業で栄えた離島に、今は老女が二人だけ。三人いた内の一人の弔いから、話は始まる。老女の娘(といっても結構な歳だが)が母を引き取ろうとやってくるが、そのまま島を離れられない。近くのもう少し大きな島から、役所の職員が度々様子を見に来る。離島は国境の島であり、人が住んでいることは、重要なのである。
老女たちは島を離れる気がない。海に潜り、ひらりひらりと鳥を真似て踊る。海で遭難した漁師たちは皆、鳥に生まれ変わる。老女たちも、鳥に憧れて、飛ぶ真似をする。
取り立てて大きな出来事が起きるわけではない。だが、この深さと言ったらどうだ。人が生きること、日々を過ごすこと、死ぬこと、その意味を、味わいを、なぜここまで描けるのだろうと圧倒される。国も、政治も、贅沢な暮らしも超越して、離島でひっそり生きる二人の老女が、なぜこんなにも胸に染み入るのか。村田喜代子、すごいぞ、と改めて思った。
2019/6/10