転勤族の家に生まれて、転勤族の男と結婚した。だから、子どものころから全国を住み歩いている。しかも、旅好きで転居先からあちこちに旅をしてきた。結果、ほぼ日本中の都道府県を制覇したのだが、一つだけ足を踏み入れたことのない県があった。それが、高知である。関東から行きにくいということもあるし、車を運転しない我々夫婦にとって、公共交通機関で回るには多少の困難がありそうな場所でもあった。だが、夫が退職した今、時間に制限はなく、退屈を持て余す子供もいない。いよいよ高知に行く時が来た。
午後、羽田から飛行機で一時間半。あんなに行きにくかったはずの高知にあっという間に着いた。「高知龍馬空港だって。すごいネーミング。」と笑っていたが、そういえば、出雲縁結び空港もあった、米子鬼太郎空港もあったよね、などとちょっと盛り上がる。バスで高知駅へ。駅前の観光案内所で市内の地図をもらい、夕食のおすすめ場所を尋ねる。「一番地元の雰囲気が味わえるのは、やっぱりひろめ市場でしょうね。」と言われる。駅前からは徒歩で25分くらいだって。駅前のホテルにチェックイン、荷物を置いて、さっそく街に繰り出す。
ゆっくり歩いて市内を見物しながらひろめ市場を目指す。高知はやなせたかしのおひざ元、アンパンマンの聖地らしい。こんなごみ箱がある。
飲み屋さんが多いなあ。そういえば、高知の人は酒飲みが多かったっけ。道端に「嘔吐禁止」という立札があるのを見て驚いた。「立小便禁止」は見たことがあるけれど。って、尾籠な話で申し訳ない。
お目当てのひろめ市場に到着。広い空間の周囲にぐるっと食べ物屋が並び、真ん中にテーブルがずらずらある、いわゆるフードコート形式。まだ六時前なのに、満員だ。きょろきょろ見渡して、二つ向き合いの席が空いているのを見つけて、お隣にいるおじさんに「ここ、いいですか?」と聞くと「どうぞ、どうぞ」とにっこりしてくれる。ああ、よかった。「明神丸」という店で、かつおの塩たたきと生ビール。カツオは藁で焙ったばかりでほんのり暖かく、薫り高くて、おいしいったらない。こんなかつおのたたき、初めて食べた!!それから、クジラの竜田揚げやウツボのてんぷらなど。夫は日本酒「船中八策」をちびちび始める。
となりの席を気持ちよく開けてくださったお隣のおじさんたちが「関東のお人ですか?」と話しかけてくる。「イントネーションがこっちじゃないから。」「ああ、わかります?そちらは、地元の方なんですか?」「いや、我々もきのうからこっちに来ていて。昨日は席が取れなかったんですよ。」ですって。一人は埼玉、一人は東北、もう一人は…どこからだったか忘れちゃった。ここのかつおのおいしさについて、ひとしきり話が弾む。こんなにおいしいかつおが食べられるんじゃ、そりゃあお酒も進んじゃうよね、という話になる。
さて、我々はそろそろお暇しましょう。おじさんたち、ありがとうございました。宿までゆらゆら歩いて帰りましょう。帰路、こんな「べろべろの神様」と出会って笑ったのでした。