「世界」8月号を読む その1

「世界」8月号を読む その1

2021年7月24日

「世界」という雑誌があることは知っていたけれど、あまりにも硬そうでちゃんと読んだことはなかった。永田浩三氏のブログに八月号の話題が載っていて、気になったので読んでみた。

この雑誌に掲載されている伊東光晴氏(私には、「君たちの生きる社会」で印象深い経済学者である)の「経済学から見た原子力発電 何が推進させたか、代案は何か」という論文が実に興味深かった。

もしかしたら常識なのかもしれない、保険制度が企業活動を決定するという現実を私は不勉強にして知らなかった。世界の保険業界が、マンモスタンカーによる事故の沿岸海域への汚染被害に対する保障を、実損害ではなく、上限を決めて保障するとしたことが、その後のマンモスタンカーの建造を中止させたという。逆に、実損害すべての引受が決定されたジャンボ飛行機は運行され続けている。では、原発はどうか・・・というのが、この論文の出発点である。

そもそも、原子力発電をアメリカが推進したのは、原子爆弾を生産し続けることができない状況が生まれたことによる。原子力発電を続けることで、軍事技術を維持しようという考えが根底にあったからこそ、トリウムによる発電は却下された。・・・・ということも、驚いて話したら、「それ、有名な話だぜ?」と、夫に言われて、私は目からウロコである。でありながら、軍事目的を持たない日本が、原発をここまで推進していったのはなぜか・・・という道筋を、この論文はとても分かりやすく説明してくれる。そして、そこには、やっぱり、あの田中角栄氏が、ガッツりと絡んでいたのだ!!

2007年5月1日のブログ「異形の将軍」で、私は、今も彼の流れが脈々と続いている、と書いた。まさに、田中角栄が、戦後の日本の政治のあり方を形作り、それがずっと続いてきたのだということが、ここでもまた明らかにされている。国家予算で大きなものを作ることを利用して、まるで錬金術のように、巨額の利益が生み出され、それが政治へと流れていく・・・その繰り返しが、政治というものを作っているのだ。

原発を作るという計画が立て始められる、その瞬間から、資金は突然湧き出し、溢れ、流れ続け、しかし、それは竣工稼働と同時に激減する。だからこそ、原発立地は同じ場所に繰り返される。それは、麻薬なのだ。

20頁近くに渡るこの論文は、あるいは難しすぎると感じる人もいるかも知れないが、よく読めば、実に論理的に整理され、分かりやすく書かれている。80歳を超えられたであろう伊東先生が、どのような思いでこの論文を書かれたかを思うと、胸が熱くなる。明晰なこの文章を私たちは心して受け止めるべきだと思う。

2011/7/17