いずみさん、とっておいてはどうですか

いずみさん、とっておいてはどうですか

135 高野文子と昭和の暮らし博物館 平凡社

高野文子は寡作な漫画家で、数年に一度、うっかりすると十数年に一度しか本を出さない。前回見かけたのは「ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集」の挿絵だった。もちろん買っちゃったわよ。高野文子は、私が一生ついていく漫画家の一人だから。

で、最近の高野文子は、以前にも増してあんまり漫画を描かなくて、ほかのことに興味があるみたい。この本も漫画ではない。「昭和のくらし博物館」に昭和のこどものくらしがいっぱい詰まった荷物が届いたところから、それを展示して公開するまでの様々な経過を書籍化したものだ。

届いた荷物の中には、昭和20年代生まれの子供たちの思い出の品がぎっしり。おはじきやおままごと道具、積み木やお人形、紙人形、お絵かきに作文、日記帳など。日記を読むと当時のこどもの生活がよみがえってくる。としまえんに行ったり、どぶそうじをしたり、おにごっこで遊んだりしている。

ままごと道具やお人形の写真はとても懐かしい。私はこの人達よりはけっこう年下だが、似たような道具で遊んでいた。とりわけ、手製の人形の服を見て、いろいろな思い出がよみがえってきた。かぎ針編みで作ったセーターや、へたくそだけど一生懸命塗ったスカートなど。紙の着せ替え人形も大好きだった。

昭和の民家がそのまま「昭和のくらし博物館」となっている。そこに資料を並べ、展示の準備をする。ワークショップも企画するし、これらの資料を提供してくれた、いずみさんとわかばさんのお話もうかがう。お二人とも、今はお孫さんのいるおばあちゃまだ。

2017年から2019年まで開催された、この展覧会が本になった。すべての展示を並べたのは高野文子。あとがきで、こんなことを書いている。

わたしは昭和って時代がとくに好きなわけじゃないです。
良い時代だった、という人がいれば、うんうんとうなずくし、
ひどい時代だった、という人がいればこれにもううんとうなずいてしまいます。

(引用は「いずみさん、とっておいてはどうですか」より)

そうだよね、と私も思う。

私は、子ども時代を振り返るとき、そんなに幸せじゃなかったな、と思う。けれど、でも、この本を眺めていて、ああ、結構楽しい時間だってあったんだよな、と思うことができた。それだけでも、この本を買った価値は十分にある。