そこにはいない男たちについて

そこにはいない男たちについて

2021年5月29日

36 井上荒野 角川春樹事務所

一年ぶりくらいの井上荒野。やっぱりうまいなあ。

もう嫌いになってしまった夫と暮らす女性不動産鑑定士と、最愛の夫を亡くした料理研究家の女性。どっちがかわいそうなんだろう、と不動産鑑定士が聞く。夫が「いる」のに、「いない」。だから自分のほうがかわいそうだ、と彼女は思う。料理研究家の夫は「いない」けれど、「いる」ではないか。

どちらも、それぞれに「いない」夫と向き合い続ける。読んでいる私は、どちらもつらい。でも、亡くしたほうがつらいかなあ、なんて思う。私には、無理だ。

井上荒野の小説にはよく料理が出てきて、それがまた、いつも美味しそうだ。今回も、料理研究家が出てくるから当たり前っちゃ当たり前だが、みずみずしく鮮やかに美味しそうだ。あるいは、不味そうな料理は、本当に不味そうだ。食べるという行為は生をあからさまに立ち上げて見せるものなのだな。

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