そして私は一人になった

そして私は一人になった

78 山本文緒 幻冬舎文庫

「自転しながら公転する」を読んで素直に「人生っていいよな」と思えたのを思い出す。そう思った半年後に山本文緒さんは亡くなった。驚いた。私の好きな人は、なぜ早死にするのだろう。やめて。

この本は1997年に出された。つい最近じゃん、と思ってしまうのだが、なんとうちの娘が生まれる前の年だわ。時間って知らないうちに経つのね。原稿はかろうじてワープロで打ってるみたいだけれど、それをファックスで送っていて、それでも編集さんに取りに来てもらわないで済むのってすごいわ、楽だわ、みたいなことが書いてある。よろよろとパソコンに手を出すが、うまくいかなくて呻吟しているし、将来はファックスも使わずデータだけで送信する世界が来る、と言われて、そんなことあるもんか、とつぶやいたりしている。あれからずいぶん経ったのね。

作者32歳。定年まで勤められそうな優良企業のOLで、初めて書いた少女小説でデビューして副業となし、大好きな夫と結婚生活を送っていた彼女が仕事をやめ、離婚をし、少女小説に限界を感じて「本当の作家」を目指して努力しても本は売れず、そして「私は一人になった」。そこからの一年間の記録、そして「四年後の私」というあとがき。しみじみと読んでしまった。

私は一人になるのが好きではない。一人暮らしをしたことはあるが、その後の結婚がもう決まっていたから期限付きの独居である。それでも「もういい」と思ったくらいだ。山本文緒は、一人暮らしはやっぱり寂しい、と書いているが、寂しいことがうれしいことも多い、と書いている。なるほど、と思う。私はそうなれるのか。なりたくない、ならなくていい、とちょっと思っているのは、たぶん今が幸せだからなんだろう。

でも、孤独は人を成長させるね。作者は一人で暮らしながら、自分と他者、自分と仕事、自分と世の中について考える。じっくり自分と向き合っている。そういう時間が彼女には必要だったのだとよくわかる。それを経たからこそ、よい作家になったのだ。

カナダのフェアバンクスに行って、マイナス22度の露天風呂に浸かって、空を見上げるとオーロラが驚くほどの速さでうごめいているエピソードが気持ちよさそうだった。肩から下は42度で、肩から上はマイナス22度。いつまでだって入っていられる、のぼせない。そして、満天のオーロラ。天国じゃん。うっとりした。

この本は旅の車中、第一冊目として読んだ。そうしたら、ついた場所は暴風雨の真っ最中で、着くなり傘の骨が折れて、帽子が飛んだ。見たかった山からの夜景は霧に包まれて無理だと言われ、せめて車内から市内を見ようと乗った市電の窓は曇りまくって全く外が見えなかった。それでも宿で入った露天風呂は、風がびゅうびゅう吹いてきて、まるでフェアバンクスだわ、と思えて、結構満足した。この本を読んでいて、よかった。