その扉をたたく音

その扉をたたく音

2021年11月20日

99 瀬尾まいこ 集英社

「夜明けのすべて」以来の瀬尾まいこ。この人の作品には、悪い人は出てこないなあ、とつくづく思うね。「そして、バトンは渡された」を、私は現代のおとぎ話だと感じたが、これもそうだなあ。色々大変なことはあったけれど、主人公はそれらをちゃんと乗り越えて、最後には幸せになりましたとさ、という流れ。いいんだけどさ。安心できるんだけどさ。でも、この芸風、ずーっとこのまんまでいいのか。とちょっと思っちゃう。余計なお世話だけどさ。

音楽で生きていく、なんて、特に才能もないのに息巻いて、大学卒業後も親の足のすねをかじってギターばっかり弾いていた主人公が、ひょんなことで老人ホームに行って、サックスの名手である介護士に出会う。彼を音楽の道に引きずり込もうとして、逆に老人ホームに引きずり込まれていく主人公。ホームの入居者であるばあさんとの絆。そして、いくつかの別れ。ウクレレを教えたり、「赤毛のアン」の本を買ってきたり、いいエピソードもたくさんある。ハートウォーミングな物語。安心したい人にお勧めしたいような本だわ。