ちいさい言語学者の冒険

ちいさい言語学者の冒険

2021年7月24日

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ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密」広瀬友紀 岩波書店

 

「おんな」と「こころ」をくっつけたら「おんなごころ」。でも、「おんな」と「ことば」をくっつけたら「おんなことば」で、「おんなごとば」みたいに「こ」にテンテンはくっつかない。どういう理屈でそうなっているかなんてわからないけれど、私たちは自然にそういうふうにしゃべっている。
 
まっさらだった赤ん坊の頃から、私たちはいろいろな体験を経て言葉を覚えてきた。でも、どんなふうに覚えていったか、もう私たちは思い出せない。そこで、そうした言葉の知識をまさに試行錯誤しながら積み上げている最中の子ども自身ーちいさい言語学者の冒険にお供しながら実況中継するという試みが、本書である。
 
「これ食べたら死む?」「蚊がに刺された」「とうもころし」。全部、子育ての過程で聞いたことがある。「おにいちゃんきないね」に対して「こないね」と返すと、「こない」が正解だとわかって、「おにいちゃんがこた!」と得意気にいう・・・みたいな誤解も、経験がある。いや、こういったネタを楽しむための本じゃないんだけどね。どうやって、子どもたちが言語を取得していくのか、を実況しながら論理的に考察している本なのだけれど。
 
思いを言語化出来る力というのは、実はとても大切だ。なんだかよくわかんないけどイライラする、というのと、こういう理由でこのように悲しいのと恥ずかしいのがごちゃまぜになっているのだ、と具体的に理解するのとでは、その後の対応や、解決、浮上の方向性が違う。ずっとわけも分からずうずくまっているのと、問題を整理して出来ることから解決していくのとでは、その後の経過はまるで違ってしまう。言葉をより多くより深く知り、活用できることは生きる力につながる。
 
ちいさい言語学者の冒険に付き合いながら、その冒険がより深くより豊かなものであってほしいとつくづく思った。それにね。その冒険は、今も続いているんだよね、みんな。

2017/5/18