でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相

でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相

2021年7月24日

「でっちあげ 福岡『殺人教師』事件の真相」福田ますみ

なんとも、恐ろしい話。
覚えてますか?学校の教師が、担任しているクラスの児童がアメリカ人の血をひいていると知って、「血が穢れている」といじめたという事件。あの事件を検証した本です。

極悪非道の教師の実態が暴露されていくのかと思ったら、逆でした。あの事件は、でっちあげだった、という話。
この本によれば、その教師は、児童に体罰をしたこともないし、血が穢れているなどといったこともないし、ましてや混血であることを気にも留めていなかった、のだそうです。

裁判にまでなった事件なので、どちらの側に立つか、何が真実なのかは、裁判の過程で分かっていくことであり、こんな本を読んでも偏った情報しか手に入らないだろう、と、完全に怪しむ体制で読んだのですが・・。

そもそもこの事件の根幹を成す、この児童にはアメリカ人の血が流れている、という事実が嘘であった!というのは驚愕でした。おじいちゃんがアメリカ人で、両親もアメリカ育ちで、そのことに強い誇りを持っているのに、教師からアメリカの血は穢れている、といじめられて、児童はPTSDになった、ということなのに。
調べていくと、両親の証言は二転、三転し、最初は彼らはアメリカの学校に通っていた、と言っていたはずが、何度か旅行先で遊びに行っただけ、になり、最後には、状況的に、アメリカに行ったこと自体がありえない、ことになり。何より、アメリカ人の祖父などと言う人間はまったく存在せず、最初は日本語がしゃべれないと言われていた祖母は、日本を一歩も出たことが無い、と自分で証言し・・。この両親の証言が、最初から最後まで、嘘にまみれていることが、明らかになっていくのです。

耳がちぎれるほどひどい体罰を受けた、ということになっていて、校長もそれを証言しているのに、では、その傷を見たのか、と問われて答えることもできない。体罰の証拠もない。周りの児童に尋ねても、そんな体罰、見たことも無い、と。
また、この両親は、余りにも常識はずれの言動で、周囲の保護者からも敬遠されており、被害者であるはずの児童は、暴力がひどく、はさみで指を切りつけられたクラスメートもいて、問題児であったことが明らかになっていくのです。
PTSDの診断を下した医師の診察はあまりにずさんであり、実際のカルテには、まったく何の問題もない元気な子どもの姿しか記入されていないことが判明します。
つまり、この本によると、一方的な被害者はむしろ教師の方なのである、と言うことなのですね。しかも、かなりはっきりした証拠、根拠に基づいていることがわかります。

とはいえ、この教師の方も、脇が甘い。その場の空気に流されたり、校長の叱責に怯えて、思わずその場をおさめる発言をしたり。ましてや、校長、教頭の対応のひどさたるや、とにかく事を荒立てずに済まそうと、相手親の言いなりにどんどんなっていく・・・。

結局、第一審では体罰はあったとしても、それほどひどいものではなかったし、血の穢れ発言も認めがたい、PTSD診断も信頼しがたい、としつつ、福岡教委に220万円の支払いを命じています。軽微ながら、体罰に対しての罰金と言うわけ?

この児童の両親はこれを不服として、控訴したけれど、結局、教師相手には控訴を取り下げ、教委だけを相手として、まだ裁判が進んでいるとか。

よく取材し、調べれば、どちらがおかしいかは分かったかもしれないのに、「血の穢れ」「問題教師」の話題に飛びついて、両親の証言だけを元に記事構成して、この問題を大きくしてしまった新聞、週刊誌の責任が、この本では問われています・・・。

結構話題になったらしいのに、この本の存在に今まで気づかなかったのは、何のことはない、その新聞と、その週刊誌の書評欄が、私の大きな情報源であるからと気がつきました。

時々、首を傾げてしまうような保護者に会うことがあります。自分たちの主張だけをぶつけて、教師に何もかもおっかぶせ、声高に糾弾するけれど、自分たちは何もしない、反省しない。モンスターと呼ぶそうですね。そういう人にあってしまった、ということなのかもしれません。

でも。教師も、やっぱり甘いわよ、と、ちょっと思います。毅然とした態度を取ることもできたはずなのに、事なかれ主義がどこまでもはびこって。これは、校長側管理体制にも問題があるのかもしれませんが。こういう問題が起きないためにも、風通しのいい、教室で何が起きているかいつも分かることができる学校であってほしい、と思ったのでした。

2007/6/14