ぼくのメジャースプーン

ぼくのメジャースプーン

2021年7月24日

98

「ぼくのメジャースプーン」辻村深月 講談社文庫

 

過去の読書歴をひっくり返してみても名前が見当たらなかったところを見ると、どうやら辻村深月は初めて読んだらしい。結構なビッグネームなのにね。そうだったのか、と我ながら驚く。
 
ちょっと前に、北欧へ旅をした。父の認知症が進んで、母もくたびれていて、そんな悠長なことをしている場合じゃないのかもしれないけれど、でも、今だからこそ行きたい思いもあった。いざ出かける直前になって、旅のお供の本がないことに気づいて慌てて探したら、娘が家を出る時に置いていった文庫本を発見。辻村深月が数冊並んでいたので、この一冊をカバンに突っ込んだ。
 
実際には成田に向かう電車の中でほとんど読んじゃって、でも、旅の最中は本を読む暇なんてほぼなかったから全然困らなかったんだけどね。思ったより面白くて、ぐんぐん読んでしまった。
 
ふみちゃんというしっかりした大人びた女の子と、その子が大好きなまっすぐな男の子のお話。学校で陰惨な事件が起きて、それにどう立ち向かうか、どう対処するか、という問題が後半の大きな焦点になる。
 
主人公の男の子のもっている力というのがなかなかユニークで、自分ならどうするだろう、とあれこれ考えた。その子にアドバイスをする男性の指導に、時として違和感があったのだけれど、ここで詳しく書くとネタバレだしなあ・・・。
 
ひとは絶対的に悪の存在であることなんてあるんだろうか、と私は思う。最近テレビでアーレントの「エルサレムのアイヒマン」の話なんて聞いちゃったからかもしれないけれど、悪って、本当はとても陳腐な平凡なものじゃないかと思うし。
 
ひとりの人間の中には極めて善良だったり誠実だったりするところと、残忍だったり鈍感だったり無頓着で卑劣なところが混在し同居しているものだと思う。良きものが、悪しきものをなんとかコントロールし、かつ、その存在を否定せずに生きられたら、というようなことを私はいつもなんとなく思っているのだけれど。
 
絶対に許さない、という立場を取るのは難しいなあ、と思う。これを読んだ人と話がしたいなあ。あなたなら、どうする?と聞いてみたい私である。

2017/9/27