わたしのマトカ

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2021年7月24日

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「わたしのマトカ」片桐はいり 幻冬舎文庫

 

「かもめ食堂」は私の大好きな映画だ。舞台はフィンランド。小林聡美ともたいまさこと片桐はいりという黄金のトリオが演じる心温まる物語だ。この本には、その映画の撮影のために片桐はいりがフィンランドに滞在した間のエピソードが描かれている。
 
「かもめ食堂」は食べ物がおいしそうな映画であったが、この本にも「さやえんどうを生で食べる」とか「おやつに人参を剥いて出してもらう」とか「一リットルのいちごをスプーンですくってざくざく食べる」とか、なんともおいしそうなエピソードがあふれている。
 
といっても、サルミアッキという謎の黒い飴はおいしそうではない。「タイヤとかゴムのホースに塩と砂糖をまぶしてかじったら、もしかしたらこんな味がするのかもしれない」というシロモノである。が、フィンランド人スタッフはどんな菓子類よりもまずサルミアッキにたかるのだそうだ。フィンランドの魂の味。
 
たぶん、リンドグレーンの物語に出てくる「カンゾウアメ」がそれだと思う。そういえばむかしむかし、渋谷のスウィフトディッパーダンとうアイスクリーム屋には、真っ黒なアイスフレーバーがあって、高校生の私たちは、それを罰ゲーム代わりに押し付けあって食べたものだ。ゴムみたいな、しょっぱいような甘いような、食べ物じゃないような味がしていたが、あれがそうだったのだと思う。フィンランドでは、美味なんだろうか。
 
撮影が終わってから試したファームステイの経験談も素敵である。田舎の農家で、森とベリーとサウナ。予約したその日に、農家の奥さんが入院するはめになっちゃって、旦那さんが一人で必死に応対してくれたのも、暖かく切ないエピソードだ。奥さんは、その後、退院してちゃんと元気になったというから、良かった。
 
読み終えたら、もう一度「かもめ食堂」が見たくなったし、フィンランドに行きたくなった。もともと北欧は、私の心の故郷だ。って一度しか行ったことないし、それもデンマークとスウェーデンだけなんだけどね。いつか行ってやる、フィンランド。

2016/6/26