アウシュビッツの図書係

アウシュビッツの図書係

2021年3月29日

4 アントニオ・G・イトゥルベ 集英社

1994年、アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所内に、ユダヤ人の子供500人が集まる「学校」が作られた。それは国際監視団の目をごまかすためだけのものに過ぎなかったが、そこには秘密の図書館があった。たった八冊の蔵書と、あとは、物語を暗記するほどに覚え、子どもたちに向かって語ることの出来る「生きた本」が数名であった。これは、その図書館の八冊の蔵書を守る図書係の役目を担い、戦後まで生き抜いたチェコ出身のユダヤ人の少女の物語である。

 人の命が虫けらほどの重みもないアウシュビッツで、飢えと恐怖と病気に怯え、苛まれながらも、子どもたちは学校で過ごし、学んだ。本を読んでいる間は、違う場所に行ける。それはいわばバケーションに出かけるようなものですらあった。本というのは、そういうものなのだ、と私は改めて思う。その場にいながら、違う場所に行き、そこで違った経験をし、違った人生を生きられる。アウシュビッツで本を読むという行為が、絶望の中の希望としてどれだけ大きな力を持ったことだろうと思わずにはいられない。本には、そういう力がある。

図書係としての少女がいかに本を守り抜いたのか、また、その学校なり図書館を大人たちがどのように作り上げたのか、それからそこで何があったのか。読むのはとてもつらい本であった。どんな場所でも、人は生きるし、希望を持つ。人を愛するし、あるいは憎む。とてつもない残虐な目に会い続けた人たちが、どんなふうになるのか、そこで動やったら生き延びられるのか、本当に苦しい読書であったが、やめることはできなかった。

私達が当たり前に日々を生きていられることがどんなに幸せなのかを改めて思う。人をカテゴリー分けし、差別し、見下し、踏みにじることがどんなに罪深く恥ずかしいことなのかを改めて思う。人種や民族や性別や嗜好で人を差別することの恥ずかしさを、私達は忘れてはいけない、とつくづく思う。この本を読んで欲しい人達が、いっぱい、いる。